学校には行くが、教室でなく保健室で一日を過ごす「保健室登校」の生徒が「やっかい」だと、中学校教師が相談する記事が、2016年9月10日の「朝日新聞be」に掲載された。回答した社会学者の上野千鶴子氏は、「あなたのような教師がいる学校には預けたくありません」と厳しい言葉を使いつつ「話を聴いてあげてほしい」と求めた。
保健室登校の対応をめぐっては、議論がある。子どもの「居場所」として機能を果たしているという見解もあれば、クラスメートとの接点がなくなってコミュニケーション能力が低下し、しかもそれは「不登校より長引く」として根本的な解決をすべきという考えもある。
上野千鶴子「ほんとに怠けてるなら、わざわざ学校へ来ない」
朝日新聞記事の相談者は、30代の公立中学校担任の男性教師。授業を受けず、保健室で「自分勝手に時間をつぶしている生徒」がおり、「体の具合が悪いなどと理由をつけています」。「早退して医者に診てもらえ」と勧めても聞かず、「ずっと保健室に入り浸り」という。養護の先生からは「『担任の先生が何とかして』と半ば責められ」、どう対応すればいいのか分からずに「イライラして腹立たしい気持ち」を抱いている。
上野氏は回答のなかで、子どもは自分が抱える問題を「カラダの不調で訴えます」としたうえで、生徒が主張する「体の不調」の背後には「何かいりくんだ隠された事情がある」と推測する。言葉どおりに解釈して
「『怠けてる』なんて誤解も甚だしい。ほんとに怠けてるなら、わざわざ学校へ来ないでしょう」
と男性教師を諌め、「『どうしたの?』『どうしたいの?』とじっくり聴いてあげてください」「頭ごなしに否定しないで」と促している。
「保健室登校」の児童・生徒数は、文部科学省で実態調査をしている。同省がウェブサイトで公表したデータによると、1000人あたりで全国の小学校に01年度は1.2人、06年度は2.0人。中学校では01年度5.6人、06年度6.6人。高校では01年度1.4人、06年度2.8人。小中高のいずれでも増加していた。
立命館大学スポーツ健康科学部の三浦正行教授は、13年5月15日発刊の「ひろば・京都の教育 第174号」のなかで、「『保健室登校』の子どもたちが『こころを開き』、教室に戻っていく足掛かりをつくる」のが保健室であるとし、「子どもたちの成長・発達を見守り、どのように寄り添って行けるのか。保健室が決定的に重要な場となっている」と役割の大きさを主張している。
「完全に不登校とイコールです」との主張も
保健室が果たす「居場所」としての機能について調査・考察した論文が、愛知教育大学保健環境センター紀要・第9号(2010年)に掲載されていた。子どもたちは「受け入れられている感じ」「精神的安定」「自己肯定感」を覚えているという。来室頻度が高いほど「生徒にとって保健室は日常生活により密接した場所になるであろう」と分析している。
ただ、そうした保健室登校の常態化には異論もある。不登校生徒を受け入れる「フリースクール元気学園」(静岡市)はウェブサイトで、保健室登校は「完全に不登校とイコールです」「全く学校に行かない状態より、長引くことになります」と警鐘を鳴らす。
さらに、学校に行ってほしいと思う親と、行きたくない子どもとが「綱引き」のようにせめぎ合い、「こう着」しているのが保健室登校の状態であるとし、
「時間だけ経っていく」「問題の先送りを、親子でしている」
と指摘する。その状態が長引くほど、他の児童・生徒との距離が大きくなり、学校に復帰するのがますます難しくなっていくとして、「問題が雪だるま式に増えていきます」。真剣に親子で向き合うべきであり、解決に動くのは「子どもではなく、親」だと主張する。