日銀のマイナス金利政策や、相続税増税の影響で賃貸マンションにマネーが流入している。その影響を受けて賃貸マンションの建設や管理を手がける大東建託の業績が改善し、今(2016年)夏以降は株価が上場来高値圏で推移している。
2015年1月の相続税増税は、富裕層を慌てさせた。各ビジネス誌は、増税前から「表紙に相続税と書けば売れる」(某誌幹部)状態で節税策を競って紹介。そうした中で、「現金より不動産の方が、納税額が少ない傾向がある」という相続税節税の定番である賃貸アパート・マンションの人気が加速したのだ。もちろん、賃料収入も期待できる。
マイナス金利でマネーが不動産に流入しやすく
そこに追い風を吹かせたのが日銀。2016年2月にマイナス金利政策を導入するという黒田東彦総裁のサプライズだった。この影響で中長期の国債利回りがマイナス圏に突入し、行き場を失ったマネーが不動産に流入しやすくなっているのだ。銀行から低金利でお金が借りられることも、賃貸物件には追い風となった。
大東建託はこうした動きの恩恵を受け、業績にも好影響が出ている。2016年4~6月期連結決算は、経常利益が315億円と、過去最高を更新した。日本経済新聞は、16年9月中間決算についても「経常利益が過去最高を更新する見込み」と9月22日に報じた。
大東建託の株価は、08年のリーマンショック時を近年の底値として基本的に上昇基調をたどっているが、最近の経営環境の好転がこれを加速させている。今(16年)夏以降は7月27日の取引時間中につけた上場来高値(1万7510円)に近い価格を維持している。
賃貸物件を手がける積水ハウスのような会社も業績が改善。9月8日には2017年1月期の通期予想を上方修正し、連結営業利益が前期比17%増の1750億円になる見込みだと発表した。
「さすがに飽和感が出てきた」
ただ、現在の都心部を中心とした地価上昇が転換点を迎える可能性がある。まず日銀の政策が9月に変化した。中長期の国債利回りがマイナスのため生命保険会社や年金機関が運用難に陥っていることを念頭に、「10年物国債の利回りを0%に誘導する」との目標を新たに掲げたのだ。これによって投資マネーの一部が不動産から国債に回帰するとみられている。人気の賃貸住宅についても、「さすがに飽和感が出てきた」(不動産大手中堅幹部)との指摘がある。
特に、いくら相続対策とはいえ、借り手がいなければ回らなくなる道理で、「駅から10分を超えるような物件は部屋が埋まらずに苦しいところもある」(業界関係者)といった声も聞こえ始めた。大東建託株を押し上げた環境には変化の兆しが見え隠れしている。