学校体育の事故が後を絶たない 水泳や柔道は専門指導者が必要か

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   東京都立墨田工業高校の水泳の授業で、男子生徒がプールに飛び込んだ際、頭を底に打ちつけて首の骨を折る重傷を負った。

   学校の体育中の事故は、水泳に限らず毎年何件か起きている。種目によっては授業で扱うのを禁止すべきという議論はツイッターをはじめインターネット上でもあるが、「危険だからなくす」という考えに異論を唱える専門家もいる。

  • 水泳授業の飛び込みで、生徒が首の骨を折る事故が起きた(写真は記事とは関係ありません)
    水泳授業の飛び込みで、生徒が首の骨を折る事故が起きた(写真は記事とは関係ありません)
  • 水泳授業の飛び込みで、生徒が首の骨を折る事故が起きた(写真は記事とは関係ありません)

デッキブラシを構える指導「不適切だった」

   墨田工高での水泳の事故は2016年7月に起きた。J-CASTヘルスケアの取材に答えた東京都教育庁指導部の担当者によると、飛び込み位置から1メートル先、水面から1メートルの高さで、保健体育の男性教諭(事故当時43)がデッキブラシを水平に構え、それを飛び越えるよう指導していた。プールの水深は1.1メートルだった。頭を打った男子生徒は16年9月29日現在、胸から下が自由に動かせない状態で、懸命にリハビリをしているという。都は取材に対して、「男性教諭の指導方法が不適切だった」と認めた。

   体育授業中の事故は、全国の小中高校で毎年ある。日本スポーツ振興センター(JSC)がまとめた統計によると、2012年度はけが60件・死亡2件、13年度はけが50件・死亡3件、14年度はけが49件・死亡5件だ。

   学校で起きる事故への問題提起を続ける名古屋大学大学院・教育発達科学研究科の内田良准教授は、墨田工業高校の水泳事故を受けて16年9月28日、「Yahoo!ニュース個人」に寄稿。事故の原因として、デッキブラシを使った教諭の「指導上の問題」と、競技用プールが水深2~3メートルに対して学校のプールが溺水防止のため1.1~1.2メートルほどしかないという「構造上の問題」を挙げた。内田准教授の調査によると、水泳授業の事故は1983~2013年度の31年間で169件。「それでも教育行政や水泳界はほとんど具体的な動きを見せていない。そしてまた、同じ事故が起きた」と、根本的な再発防止策がとられていない現状を嘆いている。

武道必修化なのに教員が「受け身」すら経験なし

   体育の授業では、2012年度から中学校で男女とも「武道(柔道・剣道・相撲のいずれか1つ)」が必修化されたが、柔道は部活動中の事故が頻発していた。そのため、必修化にあたり文部科学省も、全都道府県に授業での柔道の安全管理を徹底するよう12年3月9日付で通知していた。

   前出の内田准教授が、自身の主宰するウェブサイト「学校リスク研究所」で公表している調査データによると、01~10年度に起きた中学部活動中の死亡事故は、生徒10万人あたり柔道は最多の2.385人。これに次ぐバスケットボールが0.382人、サッカーが0.362人であるのと比較すると突出している。

   全日本柔道連盟・医科学委員会の二村雄次副委員長は、12年2月6日に放送された「クローズアップ現代」(NHK)で、武道必修化を前に行われた教員向けの講習会に参加した際、「柔道経験のある方は僅か。受け身も練習したことないという先生方がいらっしゃる」「この方々がまもなく直接、生徒に柔道を指導するなんてとても無理だ」と感じたと述べていた。

「危険だから禁止」ばかりでは能力引き出せない

   柔道整復師の伊藤勇矢氏は、コラムサイト「JIJICO(ジジコ)」で15年6月25日、学校での事故防止には「専門家を招いてきちんと指導してもらう」のが有効と述べる。高齢化が進むなか、「定年退職したシニア世代の中には、『まだまだやれる』『今までの経験を生かしたい』と考えている人もいるでしょう」と、経験値の高い学外の専門指導者を呼ぶように提案した。

   墨田工業高校の飛び込み事故でも、指導した教諭は「保健体育科の教員ではあるが、水泳の専門的指導方法を熟知しているわけではなかった」(都の担当者)という。

   一方で伊藤氏は、安全を重視するあまりに出る「危険だから禁止」という考え方に対し、「体に備わっているさまざまな能力を引き出す機会を失うことになるのではないでしょうか」と異を唱える。15年5月に福岡市立中学校の柔道部で起きた死亡事故を受け「非常に悔やまれます」としたうえで、「子どもたちを危険にさらすのはよくありませんが、年齢や体力に応じて段階的に運動を体験していくことは大切で、それを見守る環境作りが必要だと思います」と主張している。

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