東京都をはじめとする都会で近年、アライグマの数が増えている。郊外から都心部へと生息域を拡大しているのだ。
アライグマは多くの病原体を持っており、人への感染が怖い。命の危険を伴う重篤な病気につながる恐れもある。
アライグマ回虫の脳神経障害で死亡例も
東京都環境局がウェブサイト上で公開している資料によると、東京都で捕獲されたアライグマの数は、2002年まではゼロだったが、03年に初めて12頭が確認されると、5年後の2008年には96頭、直近となる14年には341頭まで増加した。また14年に都に寄せられたアライグマに関する相談件数は、西部の多摩地域が29件、23区でも6件を数え、実際に渋谷区や港区といった都心での捕獲が報告されている。
2016年9月26日放送の「クローズアップ現代+」(NHK)では、アライグマの感染症リスクを取り上げた。そのひとつが、アライグマの小腸に寄生することがある「アライグマ回虫」だ。その卵が人体に入ると、体内で成長して深刻な脳神経障害を引き起こす恐れがある。
埼玉県が2016年6月13日付で、アライグマ回虫についてウェブサイトで詳しく解説している。日本国内における感染例の報告はないが、米国では1981年以降、アライグマ回虫の感染を原因とする重症脳障害患者が少なくとも25例確認され、うち5人が死亡しているという。
卵は、アライグマの糞便から外に出てくる。都市部でもアライグマの目撃情報が広がっていることから、アライグマの糞も見かける機会が増えているはずだ。安全対策として、まず糞に近寄らないこと。特に子どもは、外で土や砂場で遊んだ際に気づかないままアライグマ回虫の卵に触れ、そのまま食事して経口感染しないとも限らない。土に触れた後は必ず手を洗うようにしたい。
「ゾンビ」のように狂犬病ウイルス媒介
アライグマはほかにも、人間にとって危険な病気をたくさん持っている。先述の「クローズアップ現代+」では、酪農学園大教授の浅川満彦氏が、アライグマを「病原体のデパートみたいなもの」と表現した。
ひとつは、マダニだ。アライグマに付着して、危険なウイルスを媒介する。番組で紹介されたのは「重症熱性血小板減少症候群ウイルス」だ。国立感染症研究所のウェブサイトによると、感染した場合に発熱や腹痛、おう吐、意識障害、出血症状を起こし、致死率は6.3~30%になる。2016年8月31日時点での国内の死亡例は48例だ。アライグマが媒介した事例があるかどうかは分からないが、少なくともそのリスクはある。
ほかにも、狂犬病が考えられる。「クローズアップ現代+」に出演した国立環境研究所の五箇公一氏は、狂犬病にかかった動物は通常すぐに死亡するが、アライグマはまるで「ゾンビ」のように、ウイルスを持ち運びながらしばらく生き続けると話した。厚生労働省のウェブサイトによると、今日国内で狂犬病の発生はないが、「日本の周辺国を含む世界のほとんどの地域で依然として発生しており、日本は常に侵入の脅威に晒されている」と説明しており、油断は禁物だ。
アライグマは見かけが非常にかわいいので、つい近づいてしまいがちだが、犬や猫とは比較にならないくらい狂暴だ。噛まれると狂犬病の恐れがある。危険な感染症を回避するためにも、偶然出くわした場合、捕獲を試みようとしたり、むやみに触ったりしないように気を付けたい。