人見知りする赤ちゃんは感受性豊か 泣きながらも相手をしっかり観察

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   生後半年をすぎると、急に人見知りをする赤ちゃんが少なくない。近所の人と目が合っただけで号泣したり、物陰に隠れたり。

   「この子、お友達とうまくやっていけるの?」「ひょっとして障害があるの?」と心を痛める母親も多いが、心配ご無用。人見知りの強い赤ちゃんは、それだけ感受性が豊かだからという研究があるのだ。

  • 赤ちゃんは泣きながらも相手を観察
    赤ちゃんは泣きながらも相手を観察
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ジイジとバアバの顔を見ただけでギャン泣き

   女性向け投稿サイト「発言小町」(2012年4月24日付)の「人見知りをどうやって克服させましたか?」には、悩める母親からの声がつづられている。

「10か月の男児を育児中。他人に話しかけられただけでギャン泣きします。先週、両実家に行ったのですが、実両親、義両親に対してもギャン泣きで、私と夫、両方の両親とも疲れ果ててしまいました。義親からは『うちの娘の子は2人とも、まったく人見知りしなかった。K(わが子)はきっと脳みそが凝り固まっているんだ』と言われ、悩んでいます」

   これに対して、次のような励ましのエールが送られている。

「うちの娘(現在中2)も、5か月~1歳半までの1年間、しっかり人見知り・場所見知りでしたよ。お友達の家でも床におろしただけで大泣き。頻繁に会っているはずの義母も大の苦手で、顔を見ただけで私にしがみつき、大変でした。でも、特別何もせず、1歳半でピタリと終わりました」
「うちの娘(6歳)も赤ちゃんの頃は、電車に乗ったらすぐ大泣きで、外出が本当に大変でした。パパママ以外は抱っこが絶対ダメでした。少しずつ母親学級や赤ちゃんが集まるサークルに行き、克服しましたよ」

   ジイジやバアバにまで泣いて怖がり、ママを困らせる赤ちゃんの人見知りだが、その心のメカニズムが解明された。むしろ赤ちゃんの豊かな感情から生まれる一時的な現象であり、決して心配する必要はないのだ。

   「赤ちゃんの『人見知り』行動 単なる怖がりではなく『近づきたいけど怖い』心の葛藤」という長いタイトルの研究を発表したのは、東京大学の岡ノ谷一夫教授と同志社大学の松田佳尚准教授らの研究グループだ。米の科学誌「プロスワン」(電子版)の2013年6月5日号に発表した。

   研究を支援した国立研究科学法人・科学技術振興機構が2013年6月6日付で発表した資料によると、これまで赤ちゃんの人見知りは、単に人を怖がっているだけと考えられ、特別な研究は行なわれてこなかった。しかし、赤ちゃんの人見知りをよく観察すると、はにかんだり、母親にしがみついたりしながらも相手を見ている。もし怖いだけなら相手を見なければよいのに、なぜわざわざ見るのだろうか。

相手に「近づきたい」「離れたい」と葛藤している

   そこで研究グループは、人見知り行動の心理を探るため、生後7~12か月の赤ちゃん57人を対象に実験を行なった。まず、母親にアンケートをとり、赤ちゃんがどの程度見知らぬ相手を怖がるか、また、興味を持って接近したがるか、「人見知り」度を回答してもらった。その結果、人見知りの強い赤ちゃんは、「怖がり」と「接近」の両方の気持ちが強いことがわかった。つまり、まだ1歳前の段階で相手に対し相反する感情の「葛藤」を抱えているのだ。

   次に3種類の顔写真を用意して、赤ちゃんの視線の動きや注視している時間を「視線反応計測装置」を使い観察した。写真は、(1)母親の笑顔(2)他人(女性)の笑顔(3)母親と他人を合成した笑顔、の3つだ。(3)の写真は母親に半分似ているが、半分は他人であることから、「親しみ」と同時に「不気味さ」を感じる写真だ。

   その結果、次のことがわかった。

(1)人見知りの強い赤ちゃんも、人見知りの弱い赤ちゃんも、母親の写真を親近感から、他人の写真を目新しさからよく見る。しかし、合成写真は不気味さもあって、あまり見ない。

(2)写真を見続ける時間(注視時間)を比べると、人見知りの強い赤ちゃんは弱い赤ちゃんより、他人の顔を見ている時間が長い。逆に合成写真を見る時間が少ない。これは、人見知りの弱い赤ちゃんより、見知らぬ相手をよく観察していることを意味する。合成写真の不気味さがよくわかるということは、それだけ他人を観察しているから。

(3)顔写真を「目」「鼻」「口」の部分に分け、注視時間を部分ごとに分析すると、人見知りの強い赤ちゃんの方が相手の「目」を見ている時間が長かった。特に最初に相手と目が合った時は、目を凝視する敏感な目の動きをした。これは相手が母親でも他人でも同じだった。つまり、相手(特に目)に強い関心を示している。

(4)最後に、母親と他人の写真を、それぞれ真正面からこちらを見ている写真(正視顔)と、よそ見をしている写真(逸視顔)の2種類を見せて比較した。すると、人見知りの弱い赤ちゃんは正視顔を見る時間が長かったが、人見知りの強い赤ちゃんは逸視顔を長い間見ていた。このことから、人見知りの弱い赤ちゃんは相手とコミュニケーションをとろうとしているのに対し、人見知りの強い赤ちゃんは、自分を見ている相手からは目をそらすが、相手が自分を見ていない時は非常によく観察していることがわかる。

人見知りの赤ちゃんには「よそ見」で接しよう

   人見知りをする赤ちゃんは、「見知らぬ相手に近づきたい、でも離れたい」という、相反する気持ちの葛藤の中で、相手を凝視しつつも相手に見られると目をそらす、逆に相手が目をそらすと相手をしっかり見るという、実に感受性に富んだ行動をしていた。単に怖がって逃げるだけではなかったのだ。

   研究チームの松田佳尚准教授は、育児雑誌「AERA with Baby」(2016年4月号)の「最新赤ちゃん研究特集」の中でこう語っている(要約抜粋)。

「赤ちゃんは、ママと1対1の関係から徐々に世界を広げ、他人に興味を持つようになります。同時に、生後6か月頃から『怖い』という感情が芽生えます。そのため、『他人に興味がある、でも怖い』という葛藤が生じ、ぐずったりします。人見知りが強いと、内気だとか、人が苦手と思いがちですが、人嫌いなのではなく、むしろ感受性が豊かな赤ちゃんだと言えます。人見知りの葛藤を乗り越えると、社会性や寛容性が身につけられるのです」

   人見知りの強い赤ちゃんと接する時は、「よそ見をしながら」が基本だ。脇に立ち、目を合わせないように声をかけるといいという。

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