ちやほやされ、優越感に浸りすぎて、退くに引けなくなった
この男の栄光は市にとっても名誉なことであり、もっと広く知ってもらったほうがいいと考えた。商業観光課を束ねる産業環境部の部長はかつて広報課の課長であり地元のメディアをよく知っている。そこで26日に行われる市長の定例記者会見が使えないかと考えた。会見が終了した後に、
「市にとって嬉しい出来事があった。興味のある方はこの後の説明会に参加してください」
と呼び掛けた。集まったのは7媒体ほどの記者たちだった。事前に男に記者発表をする趣旨を伝えていて、男は説明資料を用意してきた。昼休みを利用して行われた発表で男は、
「勝ちは偶然、負けは当然の世界。運が良かったのも大きいが、うれしい」
などと約1時間に渡って優勝の喜びを語ると共に質疑応答に応じた。
これを27日付けの記事にしたのが上毛新聞と朝日新聞で、上毛新聞はゲーム機のコントローラを持ち笑顔を見せる男の大きなカラー写真を掲載。朝日新聞は地方版の小さな扱いだった。しかし、この記事でウソがばれる。
上毛新聞は記事をウエブでも配信した。それを見たゲームファンが同紙に、
「そんなゲーム大会は存在しない」
とクレームを入れたのだ。あわてた上毛新聞は市の担当者に連絡し、職員は事情聴取を受けることになった。その答えは、
「フランスには行っていない」
だった。27日になって上毛新聞と朝日新聞は記事を削除し、
「記者会見で明らかにされた内容とはいえ、報道に際しての確認作業が不十分で、紙面の信頼を損なう結果となりました」(上毛新聞)
などとお詫びを掲載することになった。
男性職員は、どうしてこんなウソを付くことになったのか。市の担当者は、
「みんなに凄いね、凄いねと祝福され、ちやほやされ優越感に浸りすぎて、退くに引けなくなったのではないでしょうか。市としても、全く疑うことなく中身を確認せずに情報提供をしてしまいました。本当に申し訳なく思っております」
と謝罪していた。
記者発表を決めたのも男は仕事のスキルが高く皆に好かれていたため、臨時職員ではなく正規の職に就ける後押しができないかと考え、自己アピールの場にさせようとしたのだが、裏切られた、と残念そうだった。