「パリで行われた格闘技ゲームの世界大会で、市の臨時職員が優勝した」―――群馬県太田市は2016年9月26日に記者発表し、地元紙の上毛新聞、朝日新聞が記事にした。
上毛新聞は大きなカラー写真を掲載しその功績を讃えたが、その臨時職員、大会出場どころかフランスにも行っていないという大嘘だった。2紙は、記者発表で明らかにされたものであるとはいえ、紙面の信頼を失う結果になったと謝罪し記事を削除したが、どうしてこうしたばかげた事になったのか。J-CASTニュースは一部始終を取材した。
「世界を獲ったら祝勝会だな!場所は予約しておくよ!」
16年9月27日付けの上毛新聞によれば、男性職員(23)は20日、21日にフランス・パリで開かれた総合ゲームイベント「オータムスタンフェスト2016」に出場し、格闘ゲーム「ギルティギア」のトーナメントで2回戦敗退したものの敗者復活戦で勝ち上がり、各国の愛好家約100人の頂点に立つ初優勝を成し遂げた。サブイベントの格闘ゲーム「ブレイブルー」では無敗で優勝した。「ゲームはあくまでも趣味」であり、目標は正式な公務員になること、と抱負を語った、と書いている。しかし、ゲーム大会そのものも含めて真っ赤なウソだった。
J-CASTニュースが16年9月28日に男が勤務する同市の商業観光課に取材すると「事件」のあらましはこんな具合だった。男はゲーム愛好家として知られパソコンにも強く、市のイベントを担当する同部署にとっては力強い存在で評判も良かった。部署内では若手同士でゲーム大会の話で盛り上がることもあった。
16年9月中旬に男は休暇願を提出する。理由は「私用のため」だったが、部署内ではピンと来るものがあったのだという。
「行くんだな!?」
「行ってきます!」
そんなやり取りが行われた。ゲームの世界大会出場を疑う者はいなかった。男が申請した休暇は9月16日午後から23日まで。この間、男のフェイスブックにはフランスやドイツを旅しているような街並みや食べ物の写真を掲載し、19日には、
「今日でドイツとはお別れ!!これからフランスへ!楽しかったDanke schon!!」
などと報告した。フェイスブックでは市役所の同僚や上司との交流をしていて、
「世界を獲ったら祝勝会だな!場所は予約しておくよ!費用はもちろん賞金でね笑」
「世界をとっても、ちゃんと帰って来るのだよ」
などのメッセージを受け取っている。そして21日、
「さーていっちょとってきますか。世界を」
そして22日、
「獲りました」
と報告した。男の上司は喜んで、
「それは、それはおめでとうございます。帰ったら祝勝会ですね」
と労った。男が休日中の23日になぜか商業観光課に立ち寄っていて、部署内で大きな祝福を受けた。