猫の動画がインターネット上にたくさんアップされている。猫好きにとってはたまらない。おもわず、ほほがゆるみ笑みを浮かべてしまう。
何の気なしに猫動画を見て、爽快感を味わっているが、これが実は心の健康にもいいことが科学的に実証された。
インターネット上で猫動画は最強のコンテンツ
この研究をまとめたのは、米インディアナ大学メディア学部のジェシカ・ガル・マイアック助教授(コミュニケーション学)だ。2015年6月にコンピューター心理学専門誌「Computers in Human Behavior」に発表した。
同大学の発表資料によると、研究開始当時の2014年、YouTube上で公開された猫動画は年間約200万本で、視聴回数は合計260億回に達した。1つの動画で2000万回以上視聴されるものもあり、猫動画はほかの動画に比べ、再生率が非常に高いのが特徴だ。
マイアック助教授は、研究の動機についてこう語っている。
「なぜこれだけ多くの人が猫動画に惹きつけられるのか。いまや猫動画はインターネット上で最も人気のあるコンテンツです。ネットが社会に与える影響力を理解するうえで、猫の力は無視できません。猫動画の研究は過去に例がなく、猫の動画が人々の心にどんな影響を与えているか調べることは学術的に意味があると考えました」
ちなみに、マイアック助教授自身は愛犬家で、飼い犬のパグの動画をネット上に公開している。
全米一の人気セレブ猫も調査に協力
研究では、オンラインを通じて募集した猫動画好きの男女6795人を対象に、心理面への影響をアンケートで調べた。対象者の88.4%が女性で、うち猫好きは36%、猫も犬も両方好きという人が60%だった。全米で最も人気のあるスター猫「リルバブ」の飼い主マイク・ブラッドリー氏も調査に協力した。「リルバブ」はいつも舌を出しており、「永遠の子猫顔」が可愛らしいので、見たことのある人も多いだろう。ブラッドリー氏のアドバイスを受け、研究チームは猫動画が人々の心に与える効果について、次の項目に絞って対象者に尋ねた。
(1)猫動画を見る前と見た後では、エネルギー感や物事に取り組む意欲などのプラスの感情にどのような違いがあるか。
(2)同じく、見る前と見た後では、不安感やいらだち、悲しさなどのマイナスの感情にどのような違いがあるか。
(3)仕事中や勉強中であっても猫動画を見ることがよくあるか。
(4)その場合、猫動画を見ることによって得られる喜びなどのプラス面は、仕事や勉強を先延ばしにした罪悪感などのマイナス面を上回るかどうか。
(5)ネット上で有名な「セレブ猫」を知っているかどうか。また、猫動画をどうやって見つけて、楽しんでいるか――などだ。
猫動画は大勢を癒す「ペットセラピー」の代わりに?
その結果、回答内容は肯定的なものが圧倒的に多かった。
「やる気がない時や疲れた時に見ると、明るい気持ちになり、元気が出ます」
「仕事中もよく見るが、罪悪感を覚えることはほとんどありません。気分転換になり、かえってはかどることが多いです」
「イライラした時に見ると、可愛い猫の仕草に癒されて、ホッコリします。幸せな気持ちになります」
――などだ。
対象者の性格の面で分析すると、もともと猫が大好きな人や猫の飼い主などに前向きの効果が表れることが多いのは当然だが、特に内気な人や他人との協調が苦手な人にプラスの効果が高かった。対象者の75%はたまたまネット上で見かけた動画を楽しんでいたが、25%が人気の高い猫動画を検索して見ていた。4人に1人が「セレブ猫」を知っているということは、その猫の影響力が非常に高いわけだ。
この結果について、マイアック助教授はこう語っている。
「仕事中にこっそり猫動画を見ることは、本来推奨されない行為ですが、喜びの感情に満たされることによって生産性が上がり、その後、困難に立ち向かう勇気をもらっていることがわかりました。『セレブ猫』の力はとても大きく、猫動画が、非常に低コストで大勢の人を癒すことができるペットセラピーになる可能性が出てきました。今回は、対象者に女性が多かったので、男性にも効果があるかどうか研究を進めるつもりです」
米国には、スター猫「リルバブ」にちなみ、野良猫などを救う動物救済の「リルバブ基金」がある。マイアック助教授はその基金に、今回の研究に協力してくれた6795人の1人につき10セントの合計約700ドルを寄付した。「リルバブ基金」はクラウドファンディング(ネット調達資金)で、これまでに猫動画の視聴者から総額20万ドル(約2200万円)を集め野良猫を救ってきた。猫動画ともども、ニャンともホッコリさせられる話ではないか。