世界中でテロが頻発する中、各国の空港で厳重な警備が行なわれているが、皮膚のささいな腫れ物まで「危険物」の濡れ衣を着せられるケースがあることが、米皮膚科学会機関誌「JAMA Dermatology」(電子版)の2016年9月7日号で報告された。
報告した専門医は「心当たりのある人は、念のため医師の診断書を持参した方がいい」と呼びかけている。
女性の皮膚の下のコブに「爆発物だ!」
米国の多くの空港では、X線ではなく、特殊な周波数の電波を使った全身透視スキャン装置で乗客の身体検査を行なっている。この装置は、衣服の中の固形物や人の体の表面のデコボコや異物を発見する機能に優れているが、体の輪郭がすっかり透けて見えるため、プライバシーの面で問題になっている。
今回報告をしたのは、米ローワン大学クーパー・メディカル・スクールのウォーレン・ハイマン医師。自分の患者で皮膚に直径1.5センチほどの小さな粉瘤(ふんりゅう)がある女性が、ボディスキャンに粉瘤が写り、爆発物を隠しているのではないかと疑われたケースを紹介した。粉瘤とは、皮膚の下によくできる瘤(こぶ)状の腫れ物だ。皮膚の下にできた袋状の空洞に老廃物がたまってできる。見た目をよくするために手術で取り除く方法があるが、ほとんどが良性で治療の必要がないという。
ハイマン医師はもう1つ、2013年のケースも紹介した。鼠径陰嚢(そけいいんのう)ヘルニアの68歳の男性が、やはり武器を股の部分に隠していると疑われ、空港でその箇所の身体検査を受けた。鼠径陰嚢ヘルニアとは、通称「脱腸」(だっちょう)と呼ばれる。腸が太ももの付け根の内側から飛び出し、陰嚢(睾丸を包んでいる袋)の中に入ってしまう病気だ。軽度の場合は手術をせずに様子を見るのが普通だという。
疑われないためには手術しなきゃダメ?
この2つの例は氷山の一角で、あらぬ疑いをかけられて不愉快な思いをした人は多いに違いないとハイマン医師は指摘し、報告の最後に次のようにアドバイスしている。
「皮膚にできた良性の腫れ物は、本来、手術をする必要がありませんが、テロ対策のために、紛らわしい皮膚病まで身体検査せざるをえない状況にあるのは確かです。疑われないようにするために、取り除くのが最も確実な対策かもしれません。しかし、それは医学の目的には想定されておりません。手術をしたくない人は、医師の診断書や説明書を持ち歩くといいでしょう。私も粉瘤の女性患者に、次から安心して飛行機に乗れるように診断書を書きました」