待機児童が一向に減る気配がない。厚生労働省が2016年9月2日発表した、4月1日時点で自治体が認可する保育施設に入れない待機児童は2万3553人(前年比386人増)と、2年連続で増加した。さらに、今回初めて発表された「隠れ待機児童」数も、6万7354人と、前年比8293人も増えた。待機児童数という表の数字の背後にその3倍近い数の希望者もいることになり、両者を合わせると9万人を超える。政府は2017年度末までの「待機児童ゼロ」を目指すが、その達成が極めて厳しいことが、改めて明らかになった。
認可保育施設の全国の定員は前年より10万2818人増え263万4510人。これに対し4月からの利用を申し込んだ人は255万9465人で、前年より8万6684人多かった。申し込みの増加を上回って受け皿が増えたのに待機児童が増えたのは、「申し込みが集中した都市部でニーズが施設整備を上回った」(厚労省)ため。
地域的なミスマッチと年齢のミスマッチ
加えて、待機児童の86.8%を0~2歳児が占めるように、施設が新設されても3~5歳児は空きがある一方、3歳未満児のクラスは足りないという事情もある。地域的なミスマッチと年齢のミスマッチがダブルで効いているわけだ。
全国1741市区町村のうち、待機児童がいる自治体は前年より12増え386市区町村だった。各自治体、懸命に取り組んではいるが、前年の全国2位から422人少ない203人に減らした千葉県船橋市のような例はむしろ希少。施設整備を進めても、希望者の増加がそれを上回る「いたちごっこ」に苦労する自治体が多い。
今(16)年の最多は東京都世田谷区の1198人(前年比16人増)。次いで岡山市が729人、那覇市が559人、千葉県市川市が514人と続いた。東京都内だけで全体の3分の1以上の8466人を占めた。
今回の発表で注目された「隠れ待機児童」は、(1)認証保育所など自治体が補助する認可外施設に入った、(2)保育所に入れず育児休業を延長した、(3)特定保育園希望(自治体が通えると判断した認可保育施設に入らなかった)、(4)求職活動をやめた――などのケース。この定義にあてはまる児童を待機児童の数字に入れる、入れないで自治体によりバラつきがあり、待機児童の全体像を見えにくくしていると批判され、今回の初の発表につながった。
確かに、自治体間の差は大きい。例えば、全国最多の汚名を着る世田谷区は、親が自宅で休職中や育休を延長したケースを待機児童に含めるために数字が膨らんだ(それ以外の「隠れ」を含めると計2389人)。全国2位の岡山市は第3希望まで入れない子ども全員を、今年から待機児童に含めたため、公表数が595人増え729人になった(同1343人)。
政府の「待機児童ゼロ」の前提が...
一方、安倍首相が待機児童対策の先進例として視察もした横浜市は4月の公表待機児童7人だが、「隠れ」を含めると全国ワースト1位の3117人。育休中420人、求職活動休止366人などを含んでいないため、落差が大きくなった。同じく公表6人の川崎市も、「隠れ」を加えるとワースト2位の2553人に膨れ上がる。
また、東京都港区は公表64人に対し「隠れ」が1149人だが、認可園並みの基準で整備した「区保育室」の利用者345人も「隠れ」に含まれている。
このように、自治体による様々な取り組みを踏まえて、厚労省が「隠れ」としてまとめた数字がどこまで妥当か、単純に判断できない難しさがある。
厚労省は正確に実態を把握するため、待機児童の定義の見直しにようやく本腰を入れる。有識者と自治体関係者9人で構成する検討会を9月15日に発足させ、年度内に新基準を設け、2017年4月時点の集計から適用する考えだ。
ただ、これまで統一できなかったのも、線引きが難しいからだ。親の団体などから「認可保育施設には入れなかった児童は、全て待機児童に含めるべきだ」との主張が出るのは当然として、これに沿って数字を弾けば待機児童数が大きく膨らみ、政府が2017年度末の達成を目指す「待機児童ゼロ」に向けた計画の見直しが不可避になる。
都市部は土地や保育士の確保が難しく、保育の受け皿づくりが思うように進まない現実があり、政府が進める保育士の配置基準の緩和には「事故のリスクが高まる」との批判が根強く、慎重な自治体も多い。
「隠れ」の類型ごとの数字をまとめるのは当然だが、地域の実情などで一律には比較できない面もあり、「実態を細かく把握できる自治体の対応が重要で、それを国がどれだけ支援できるかが、待機児童問題を解決していく鍵」と専門家は指摘する。