自民党は2016年9月6日、参院選で中断していた農業改革を巡る議論を再開した。推進役の小泉進次郎・農林部会長は、JAグループ内で流通機能を握るJA全農(全国農業協同組合連合会)を「改革の本丸」と位置づける。11月中のとりまとめに向け、地域農協を通じて農家に高コストな肥料や機械を販売しているとされる流通機能の見直しにどれだけ踏み込めるかが焦点となる。
9月6日再開したのは、小泉氏が委員長を務める「農林水産業の骨太方針づくりに向けたプロジェクトチーム(PT)」。環太平洋経済連携協定(TPP)への対応を話し合うのが主眼だが、安倍政権下ではこれまでにJA全中(全国農業共同組合中央会)から地域農協の監査・指導権を取り上げることを中心とする改革を進めており、今回の「流通見直し」はJA改革第2弾とも言われている。
JA独自の事業改革案は、「努力目標」にとどまる可能性も
国内の肥料や農薬の値段が高いことを6日の会合で指摘したのは、韓国市場を調査した「日本農業法人協会」。同協会は大規模農業を展開する農業法人が加盟する団体で、独自調達でコストを下げる力のある法人も多く、JAグループとは距離を置いている。同協会によると、韓国の肥料の平均的な価格は日本の半分、農薬は3分の1だった。トラクターなどの農機具は性能が違うので比較が難しいが、基本的に韓国で売られているものの方が安かったという。日本の肥料や農薬が高い理由は「JA全農が取り扱う銘柄数が多いため、つくる方のコストもかかっていることが考えられる」と推測した。
これに対し、JA全農は神出元一専務が「生産者の視点に立てていなかった」と反省の弁を口にし、「銘柄が多すぎる」と指摘された点については絞り込んで価格低下につなげたい、との考えを示した。コメだけで2000種類を超える肥料を扱っているという。ほとんどは中小企業が作っており、肥料の数だけ会社があると言えるほどだという。コメ作りは品質が大切とはいえ、果たしてそれだけきめ細かい種類の肥料を生産販売する必要があるのかどうか。「袋が違うだけで中身はほとんど同じものがある」という指摘も聞かれるだけに、改革の余地はありそうだ。グループを代表する立場の奥野長衛JA全中会長は「日本の農業を世界標準にしていくようしっかり努力したい」と述べた。会合終了後、小泉氏は「非常に前向きなキックオフだった」と評価し、11月の改革案とりまとめに向けて自信を示した。
受けて立つ形になるJAグループは8日、独自の事業改革案を公表した。肥料や農薬については取り扱い数を削減して価格低下につなげる。一方で、安いとされる韓国製肥料の取り扱いを始める。農家にとって必要以上に高機能なこともある農機具について、必要な機能に絞った廉価版を開発するほか、家畜のえさとなる飼料については工場などの集約を促し、コスト削減につなげる、などとしている。ただ、いずれも目標や期限が明示されておらず、「努力目標」にとどまる可能性もある。