25年ぶりにリーグ優勝した広島。チームを引っ張ったベテラン新井貴浩がMVPに選出されるだろう。
広島はぶっちぎりでペナントを取った。優勝を決めたのは2016年9月10日の2位巨人戦(東京ドーム)。その巨人とのゲーム差はなんと「15」。6月初めに首位に立ち、そのままゴールする圧勝だった。
優勝の原動力となった両ベテラン
敵地での胴上げは緒方孝市監督から始まり、続いてこの試合の先発で勝利投手となった黒田博樹。3番目に宙に舞ったのが新井貴浩である。41歳の黒田、39歳の新井。2人は選手の輪の中で泣いた。
「こんな結果が待っているとは...」
黒田は昨(15)年のシーズン終了後、大リーグ復帰か広島残留かで迷い悩んだ。エースの前田健太が大リーグに行くこともあって残留を選択し、今季を迎えた。それだけに感無量だったに違いない。
「最高にうれしい」
大きな体に喜びをいっぱいに表した新井。勝負どころで快打を放ち、何度もチームを救った。
優勝の原動力となった両ベテランは、今季そろって名球会入りを果たした。黒田は日米通算200勝を挙げ、新井は2000安打を達成した。大記録もチームに活力を与えた。と同時に中堅、若手選手に生きた目標となった。
注目されるのはセ・リーグのMVP。おそらく新井が選ばれるだろう。優勝時は98打点でリーグ1位。タイトル獲得は間違いない。打者にとって打点はチーム貢献度をもっとも表す打撃部門である。打率も3割をキープするだろう。
ただチャンスに打っただけではない。
「とにかく全力プレーの印象がある。必死さが後輩に伝わり、ファンの共感を呼んだと思う」
口うるさい評論家たちも新井の姿勢を高く評価している。当然、新井の総合的評価はMVPを選ぶ投票権を持つ記者たちも、同じ見方だ。
カギを握る「票田」としての記者数
むろん、ライバルもいる。
同僚では最多勝を目指すクリス・ジョンソンと野村祐輔。この投手には沢村賞があるから票は伸びないのではないか。
「男気」の黒田も候補の一人として票が入るだろう。
むしろヤクルトの山田哲人が怖い。打率3割、30本塁打、30盗塁マークのトリプルスリーは確実で、しかも2年連続は史上初となる。優勝チームから選ばれることが圧倒的に多いが、卓越した記録を作ったときは下位チームから選出されることもある。
実は票田がカギを握る。東京は記者が多く、広島は少ない。山田のヤクルトは地元が東京。新井にとっての不安は票田になるだろう。
新井は広島に入団して育ち、FAで阪神入り。14年終了後、提示された年俸が2億円から7000万円への大幅ダウン。それを蹴って自由契約選手となり、2000万円の年俸で広島復帰。引退を考える年齢でMVPの最有力候補になったのだから恐れ入る。
放出した阪神は今季、打線が低調で苦しんだ。新井復活にはさぞかし驚き悔やんでいると思う。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)