自動運転車の実用化に向けた動きが加速している。米フォードが完全に無人で走る車の量産を2021年までに始めると打ち上げ、世界を驚かせる中、日産自動車は、高速道路を一定の条件で自動走行できる技術を日本国内メーカーとして初めて搭載したミニバン「セレナ」を2016年8月24日に発売した。
技術はもちろん、法整備など課題は山積みだが、世界中の自動車メーカーのみならずIT企業なども巻き込んだ開発競争が過熱しそうだ。
「自動運転」の4段階
「ハンドルもブレーキも無い。運転手も必要ない」。8月16日、フォードのマーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)がシリコンバレーで記者会見し、「完全無人の車」の5年後の量産を宣言した。これは、日産のセレナとは大きく違う代物だ。「自動運転車」と言ってもいろいろある。
自動運転は技術のレベルに応じて、自動運転を、制御など一部機能が自動の「安全運転支援」(レベル1)から、制御や加速、ハンドル操作のうち複数が自動の「準自動運転」(レベル2)、操作が原則自動で必要時に運転者が担う「準自動運転」(レベル3)、「完全自動運転」(レベル4)の4段階に分かれる。日産セレナは日本初のレベル2。発売後、自動運転とは直接関係ないとみられるアイドリングストップ機能の不具合で出荷停止中だが、注目度は高い。フォードが目指すのは、もちろん、レベル4ということになる。
日産セレナは、フロントに備え付けたカメラでキャッチした前の車や道路の白線などのデータを、イスラエルのベンチャーの画像処理技術で分析、人工頭脳を使ってアクセルとハンドル、ブレーキの三つを操作する。7月にメルセデス・ベンツが日本で発売した新型「Eクラス」もレベル2の自動運転車で、セレナと同様に前の車を追走するのに加え、ウインカーを動かして指示すれば車線も変更する。
「自動」と「人」の切り替えが困難
完全自動運転車の開発では、自動車メーカーにIT大手も絡んで、開発にしのぎを削っている。米グーグルは2010年に開発計画を公表し、2020年前後に完全自動運転の実用化をめざし、米国内の公道で試験走行を重ねている。2016年になって、6月に独フォルクスワーゲン(VW)、7月には独BMWがそれぞれ2021年の導入を表明、そして今回、フォードが「2021年量産化」を打ち出した。提携も花盛りで、BMWは米インテルと提携し、ダイムラーなどとも共同で独デジタル地図会社を買収。米ゼネラル・モーターズ(GM)や日産はイスラエルの企業と提携するといった具合だ。
ちなみに、日本政府は2020年をめどにレベル3を実用化し、東京五輪で世界にアピールする考えで、レベル4の国内での登場が2025年ごろと見る。メーカーも、完全自動運転を視野に入れつつも、自動運転を高速道路に限ったり、ドライバーの補助にとどめたりするなど段階的に進める考えで、一番先を行く日産でも2018年に車線変更を含めた高速道路での自動運転、2020年に市街地の交差点を自動で曲がる技術を実現するのが目標。トヨタ自動車、ホンダ、富士重工業は2020年にも車線変更を含めた高速道路での自動運転を目指すというように、フォードなどの目標に比べると、かなり控えめというか、堅実といえる。
日本が慎重なのも当然で、技術的、法的に、越えなければならないハードルが立ちはだかる。
今(16)年5月、米電気自動車ベンチャー、テスラ・モーターズの「モデルS」(レベル2)が事故を起こして死者が出た。原因は解明中だが、運転者が脇見をした際、逆光のためカメラが前方を横切る大型車を認識できなかったとも言われる。このように、技術の壁はなお高い。
完全自動運転の手前の段階では、自動運転は人間の補助であり、緊急時にはドライバーによる操作に復帰する必要があり、この切り替えを確実にできるようにするのは、かなり難しいといわれる。グーグルやフォードが一気に完全運転を目指すのも、この「切り替え」の困難さゆえで、「一気に完全自動化の方が技術的ハードルは低い」(メーカー関係者)といわれる。
法的な問題点
法的問題のクリアも簡単ではない。国際的な交通規則を定めた条約では、人間の運転手がいなければならないと規定。レベル4の完全自動運転はもちろん、レベル3以下でも、事故が起きた場合、運転者、自動車メーカーの誰に法的責任を負わせるのかという問題もある。
国交省は当面、レベル2に対応する技術や規制の基準策定に乗り出していて、運転手がまったく操作をしなくなるなどの緊急事態が考えられる場合は、自動的に路肩に停止することなどを検討しているという。国際的にも、今後、様々なレベルで検討が進む見通しだ。
こうしたハードルを百も承知で、フォードなどが開発に前のめりになるのは、排ガス規制など20世紀の環境技術が自動車業界の命運を左右したように、自動運転が21世紀の自動車の覇権争いのカギを握るという認識がある。開発競争に乗り遅れれば、部品メーカーの協力を得にくくなり、コスト削減で出遅れる懸念が大きいという。障害物を検知する機器の関連部品などは、すでに囲い込み競争が始まっている。
欧米勢に先行される日本勢にとっても、2020、21年ごろをめどとする向こう5年の攻防が重要になりそうで、国境を越えた合従連衡にも注目が集まる。