「死ぬまでセックス」「死ぬまで現役」――。男性向け週刊誌が毎週のように競い合って高齢者のセックスを特集しているが、はたして健康にいいのだろうか。
最新研究では、「記憶力の向上にいい」という説がある一方、「男性に限り心臓病リスクを高める」という説もあり、真逆の結果が出ている。いずれにしろ、メリットを享受するのは女性の方で、男性の場合は「死ぬほどセックス」が文字通り命がけになることも覚悟した方がよさそうだ。
お盛んな男性の記憶力は23%も成績が高い
豊かな性生活を送っている高齢者ほど脳を活性化するという研究をまとめたのは英国コヴェントリー大学のチーム。英オックスフォード大学の学術誌「British Geriatrics Society」(電子版)の2016年8月15日号に発表した。英国内の様々な階層から50~89歳の男女約6800人を選び、パートナーとの性行為の頻度や満足度と認知力との関連を調べた。性生活はアンケートで尋ね、認知力は言葉の記憶テストと数字の並べ替えパズルで検査した。
その結果、性生活が活発なグループの男性は、そうでないグループの男性に比べ、記憶力テストが平均で23%、数字パズルが3%ほど高い成績を収めた。女性の場合は男性ほど顕著な差はなかったが、やはり性生活の活発な人の方が記憶力では成績がよく、数字パズルではほぼ同じだった。
研究チームのヘイリー・ライト博士は、英紙ガーディアンの取材に対し「50歳以上になると性行為の回数が減るので、過去に脳の機能との関連を調べた研究がほとんどなかったが、今回、回数が多いほど認知力のスコアが上がることが確かめられました。性行為によってドーパミンなどの快楽ホルモンが分泌され、報酬系と呼ばれる脳の領域に作用し認知機能を助ける神経回路が活性化されると考えられます」と語っている。
一方、これとは逆に、高齢者の盛んな性生活は女性には恩恵を与えるが、男性には危険であるという研究をまとめたのは米ミシガン大学のチームだ。米医学誌「Journal of Health and Social Behavior」(電子版)の2016年9月6日号に発表した。
研究チームは、2005~2006年の調査開始時点で57~85歳の男女2204人を5年間追跡した。まず、調査開始時に心臓病の発作などの既往歴や血圧、脈拍、血液中のタンパク質などを検査し、心血管疾患のなりやすさを調べた。また、パートナーとの性生活の頻度や満足度も聞いた。そして5年後、死亡者の死因を調べたうえ、生存者に対し同じ検査と調査を行なった結果、次のことがわかったという。
「週1回以上」の男性の心臓病リスクが2倍に
(1)女性では「性行為が極めて気持ちがいい」「いつも満足が得られている」と答えた人々は、「満足度が低い」「性交渉がない」と答えた人々に比べ、高血圧になるリスクが非常に低くなり、心血管疾患(心臓病や脳卒中など)になるリスクが低い。
(2)逆に男性では「性行為が極めて気持ちがいい」「いつも満足が得られている」と答えた人々は、「満足度が低い」「性交渉がない」と答えた人々に比べ、心血管疾患になるリスクが高くなる。特に「性行為を週に1度以上している」男性は、「週に1度以下」の男性に比べ、リスクが2倍近くに上昇する。
つまり、セックスで健康になるのは女性だけという、従来の常識を覆す結果が出た。いったい、どうしてこんな結果が出るのだろうか。研究チームリーダーのフイ・リュウ准教授は、ミシガン大学のプレスリリースでこう語っている。
「今回の結果は、セックスがすべての人に均一に健康上の恩恵を施すという、広く支持された仮説に反旗を翻す結果です。女性にだけ健康をもたらす理由の1つは、オーガズムで分泌される女性ホルモンが体にいい効果を与えること。それと、女性の場合は性生活に満足しているということは、パートナーとの人間関係がうまくいっていることを意味しており、様々な生活上の助けを得られていることが大きいです。つまり、性生活が充実しているということが、心身ともにすべての満足につながっているのです」
「一方、男性の場合は人間関係の質に関係なく、パートナーから家事などの援助を得られる立場です。体力が衰えているのに性交渉をしなくてはという精神的な緊張と圧力が心臓病のリスクを高めます。若い男性に比べ、高齢男性はオーガズムに達するのが難しく、頑張り過ぎて血管にストレスが加わります。また、男性ホルモンの分泌を高め、性欲を促進する薬を使いがちになるため、心臓や血管に悪影響を与えます」
年をとってからのセックスは、脳にいいのか、心臓に悪いのか、男性にとって「死ぬまで悩む」問題のようだ。