物流大手の西濃運輸の持ち株会社、セイノーホールディングス(HD)が、社員教育用にスマートフォン向けのゲームアプリ「SEINO QUEST~伝説を運ぶ者たち~」を開発した。
ロールプレーイングゲーム(RPG)で、ステージをクリアするたびに会社の理念や業務スキル、交通安全などの知識について学ぶことができる仕組みで、今後は人事評価の材料に活用することも検討していく。
悪魔に捕まっている社長を救い出せ!
セイノーHDが開発したゲームアプリ「SEINO QUEST~伝説を運ぶ者たち~」は、社員提案制度に寄せられた若手社員のアイデアがきっかけ。スクウェア・エニックスの人気ゲーム「ドラゴンクエスト」をもじったようなネーミングだが、同社がインターネットサービス基盤事業を手がけるクララオンラインとアプリ開発のロボットに委託、開発した。
退屈で長続きしないといったイメージがある社内研修にゲーミフィケーション(業務やサービスなどにゲーム的な要素を組み込むことで利用者のモチベーションやロイヤリティを高めること)を取り入れ、会社の理念や業務、交通安全にかかわることなどを自発的、継続的に学べるようにしたもので、社員教育用のゲームアプリの導入は運送業界では初めてという。
ゲームは、世界に厄災をもたらす呪われた宝箱「パンドラ」から出現した悪魔に憑りつかれた国を救うため、冒険の旅に出る男の物語で、西濃運輸の社員が会社の理念や業務スキル、ビジネスマナー、一般道路の法定速度など交通規則に関するクイズ(4択)に正解すると、悪魔とのバトルになり、勝利すると経験値が上がって成長。手に入れたコインでアイテムをグレードアップさせていく。最終バトルの65面をクリアして、悪魔に捕まっているセイノーHDの田口義隆社長を模したキャラクターを救い出すのが目標だ。
クイズは全部で800問。たとえば、「一般道路における法定速度は時速何キロか」との問いに、正解すれば100%のパワーで次のステージに進めるが、不正解だとパワーが半減して、再度同じ問いに答えなければならない。クイズに正解しないとバトルに進めないため、「ゲームをクリアするたびに仕事に関する知識が学べるのが最大の特徴になっています」という。
対象の社員は、セイノーHDの輸送グループに所属するドライバーや事務員ら、約2万7000人。2016年9月9日から、配信を開始。個人が所有するスマートフォンにアプリをインストールしてもらう。
今後、自動車販売事業などにも拡大する計画。将来的には、このゲームでの成績を昇給や昇進に加味することで、「バーチャルとリアルを融合させて、従業員満足度(ES)とお客様へのさらなる満足度の向上につなげたいと考えています」としている。
「『のめり込んで遊んじゃうことで人生の勝者になれる!』ゲームです」ともいう。
「マイナス」の人事評価に使うことはない
そうしたなか、インターネットには、
「何かいいじゃん。ひと息ついたときとかにやればwww」
との好意的に受けとめている声や、
「これって業務時間中にゲームしてもいいってことなのかな?」
「なんだか運転中にゲームしてそうで怖いわw」
「そんなアプリつくってる費用があるなら、送料安くしてよ」
などと否定的な声。さらにはこのゲームアプリが昇給や昇進といった人事評価の材料に使われるとの情報に、
「社長救えんかったらボーナスなしなwww」
「スマホゲームしてることを把握して給料に反映するって大丈夫か、この会社w」
などと、盛り上がっている。
セイノーHDは、「ゲームアプリは研修用ではありますが、これがすべてではありません。これまで通り、集合研修なども行います。業務知識などの向上策として、研修のプラスアルファの部分として考えています」と説明。このゲームをやらなかったことや、ゲームで「社長を救出できない」ことになっても、「罰則もありません」という。
人事評価についても、「具体的なことはなにも決まっていません」としたうえで、「マイナス評価に使うことはありません。たとえば、同じ評価の社員がいた場合に、達成度を勘案して加点するようなことを考えていきたいです」と話す。
オリジナルの社員研修用ゲームの開発・研究などを手がける産業能率大学総合研究所によると、「研修用ゲームは、最近多くの企業が開発を進めています。ドリルやクイズなどを用いて、eラーニングの技術にゲーム感覚を取り入れたものです。ふだんから手にとりやすい『教材』としてスマホが着目されており、そこにおもしろさや興味を引きつけるゲームを取り入れた研修に、学習効果が期待されています。ただ、スマホのゲームアプリとして実用化した企業はまだ少ないと思います」と話す。
セイノーHDによると、「多くの問い合わせが寄せられています」としているが、今のところ外部に販売する予定はないという。