東京都の小池百合子知事が、2016年11月7日に予定されていた築地市場(中央区)の豊洲(江東区)への移転延期を決めた。2か月余り前という「直前の決断」で、7月の知事選中に「一歩立ち止まるべきだ」と打ち上げた公約を、ひとまず守ったものだ。
小池知事が延期理由として挙げたのは、豊洲市場の「安全性への懸念、巨額で不透明な費用の増加、情報公開の不足」の3点。中でも、最大の理由が「安全」だ。
最後の調査の結果が出るのは2017年1月
移転先の豊洲市場は東京ガスの工場だった場所で、移転決定後にベンゼンなどの有害化学物質が高濃度で検出された。このため、都は汚染土壌の大規模な改善工事を実施し、2014年に終えた。引き続き、地下水の2年間のモニタリング調査が続いていて、過去7回の調査結果は環境基準を満たしていた。そして、9月に8回目の結果発表、最後の調査は11月18日に始まり、結果は2017年1月に出る予定で、小池知事は「安全性の確認という点で譲ることができない」として、結果の判明前に移転することに難色を示したというわけだ。
また、小池知事は、豊洲市場の総事業費が予定を大幅に上回る5800億円超に拡大し、特に建設費が膨らんだことに疑問を呈し、有識者によるプロジェクトチームを設ける方針も打ち出した。過去の経緯を検証し、情報を公開するということだ。
一方、都の方針に従って準備を進めてきた卸や仲卸などの業者の多くは、豊洲で大型冷凍庫を稼働させている業者もあり、引っ越し準備も整えているなど、延期による補償問題が発生するのは必至。豊洲市場自体の維持に1日700万円のコストがかかると、都が試算している。そうした費用は、結局、都民の税金で負担することになる。
さらに、築地市場の跡地は、東京五輪の選手村や競技施設ができる湾岸部と都心を結ぶ幹線道路が通る計画で、移転が大幅に遅れるなら、五輪に道路が間に合わない恐れもある。
小池知事就任後の「新機軸第1弾」である今回の決定は都民の関心も高く、TBS系列のJNNの世論調査(9月3、4日実施)では移転延期を「評価する」63%、「評価しない」18%という結果が出ていて、全国紙も、知事の延期発表後の9月1日または2日に社説(産経は「主張」)で一斉に論じた。