日本女子卓球界を代表する存在で、リオデジャネイロ五輪では団体銅メダルを獲得した福原愛選手が、2016年9月初旬に結婚した。お相手は、台湾代表で同じくリオ五輪に出場した江宏傑(こう・こうけつ)選手で、福原選手はかねてから交際を宣言していた。
世界トップレベルの卓球選手同士の結婚とあって、早速注目を集めているのが、2人に子どもが生まれたらどうなるかという点。「最強の選手になりそう」とツイッター上ではささやかれているが、果たしてアスリートの「運動神経」は子に遺伝するのだろうか。
金メダリスト室伏広治・塚原直也はサラブレッド
トップアスリートは、その子どもも運動能力が高くなるだろうとして、度々期待を集める。
サッカー女子元日本代表で2011年度バロンドール(FIFA最優秀選手賞)受賞者の澤穂希さんは、ベガルタ仙台でプレーした元サッカー選手の辻上裕章さんと15年8月に結婚した。16年7月19日に妊娠を発表した際は、「驚異的なポテンシャル秘めてそう」とトップレベルの選手同士の子どもに期待を寄せる声がツイッター上で多く見られた。
元陸上ハンマー投げ選手で12年アテネ五輪金メダリストの室伏広治さんは、父親がハンマー投げ元日本記録保持者の重信さん、母親は円盤投げ元ルーマニア代表選手のセラフィナさんという「サラブレッド」だ。室伏さん自身、短距離走をはじめ他のスポーツでも高い能力を示している。また妹の由佳さんも、円盤投げとハンマー投げの日本記録保持者だ。
世界レベルで活躍したトップアスリートを両親にもち、自身も世界を舞台にした選手はほかにもいる。04年アテネ五輪の体操男子団体金メダリスト・塚原直也さんは、両親が体操選手の血筋だ。父・光男さんは68年メキシコ五輪と72年ミュンヘン五輪の金メダリストで、母・千恵子(旧姓:小田)さんもメキシコ五輪体操日本代表だった。
トップアスリートの親の遺伝子は子に受け継がれるのか。これには、諸説ある。
自然療法医の石川善光氏は16年3月31日、自身のブログに、運動で高いパフォーマンスを発揮できる骨格や筋肉は
「ある程度両親からの遺伝で決まる割合が高く、親のどちらかが運動能力が高い場合、子どもにも備わる可能性が高いといえます」
と書いていた。特に、筋肉の瞬発力を司る「速筋」は遺伝しやすく、たとえば陸上の短距離走は親の実力を受け継ぎやすいという。
「運動神経」の90%は後発的トレーニングで決まる
親からの遺伝で、どの程度身体能力が決まるかを表す「遺伝率」という尺度がある。遺伝子研究の動向を伝える米メディア「Genetic Literacy Project」が15年12月11日付記事で紹介した、米メリーランド大学運動生理学部のスティーブン・ロス教授の研究によると、持久力の遺伝率は40~50%、筋肉量は50~60%、身長は80%、スポーツにおける総合的な競争力は66%という。親とまったく同じレベルとは言い切れないが、身体能力は一定程度、遺伝するかもしれない点を研究では示している。
ところで、「運動神経が良い」という表現をよく耳にする。フィットネス事業を展開するスマイルアカデミー(福岡市)が14年11月24日にウェブサイトで公開した記事によると、これは瞬時に五感で状況を判断し、目的に合わせてスムーズに運動をできることを指す。たとえば、野球選手がほとんど経験のないサッカーをプレーしても最初からある程度器用にこなせる場合、運動神経が良いと言える。そして、この運動神経の遺伝率は10%しかなく、90%は後天的なトレーニングで決まるという。
日本サッカー協会(JFA)が発行する『U-8,10 ハンドブック』によると、スポーツの能力向上において、「ゴールデンエイジ」と呼ばれる3~14歳の幼少期に運動学習能力が一生のうちで最も高い。この時期に充実したトレーニングを受けられる環境を整えると、高い能力が身につきやすい。逆に、大人になってから始めると、なかなか上達しないという。名選手だった親の遺伝子を受け継いだとしても、この年代のトレーニング方法を誤ればトップレベルにはいけないのかもしれない。
順天堂大学スポーツ健康科学部教授の内藤久士氏は、日本経済新聞(電子版)11年2月5日付の記事の中で、「世界の頂点に立つには様々な環境にも恵まれなければならない。金メダルは奇跡のたまもの」として、「遺伝子もミラクルを生むひとつの要因でしかない」と述べている。