ワンセグ機能付き携帯電話を持っている人は多いだろう。それを持っているだけで、NHKに受信料を支払う義務があるかが話題になっている。
2016年8月26日、さいたま地裁は、「携帯電話の『携帯』は、放送法が規定する受信設備の『設置』にはあたらない」とし、支払い義務はないとの判断を示した。それに対して、NHKは、「判決は放送法64条の受信設備の設置についての解釈を誤ったものと理解しており、ただちに控訴する」と公表した。
高市総務相が判決うけコメント
こうした動きに対して、高市早苗総務大臣は、9月2日の閣議後記者会見で「携帯受信機も受信契約締結義務の対象と考えている」と述べた。「NHKは『受信設備を設置する』ということの意味を『使用できる状況に置くこと』と規定しており、総務省もそれを認可している」というわけだ。
J-CASTニュースの9月7日配信記事(NHK受信料、ワンセグだけで払っている人は何人いるのか 総務省が聞き取り調査へ)によれば、「総務省として『受信設備(受信機)を設置』するということの意味を『使用できる状態にしておくこと』と規定した『日本放送協会放送受信規約』を昭和37年3月30日に認可している」とのことであり、なぜ「昭和37年3月30日」との昔を持ち出したのか、筆者としてはさっぱり分からない。
総務省としては訴訟が行われているので事態を見守りたい、とコメントしておけばいいものを、わざわざNHKの肩をもつようなことを言う必要はなかった。筆者は、高市大臣のコメントの中身というより、コメントしたことの方が驚いた。
総務省にいろいろな批判が来たのだろう。上記のJ-CAST記事によれば「ワンセグだけで払っている人は何人いるのか 総務省が聞き取り調査へ」となった。
判決ロジックを言い換えれば「放送法改正を怠った総務省の怠慢」
ここまでの動きをみると、NHKは予定通りだが、総務省は滑稽である。
さいたま地裁の判決は、放送法を子細に検討し、放送法の用語の定義を定めた2条14項では、「設置」と「携帯」が区別されていると指摘している。受信料の根拠となっている放送法64条は、2条14項より前に制定されていたが、64条1項の「設置」の定義が再検討された形跡はなく、従前通りの解釈をすべきだとし、「放送法64条1項の『設置』が『携帯』を含むとするNHKの主張には相当の無理があると言わざるを得ない」としている。
要するに、さいたま地裁判決は、携帯電話を放送法に取り入れたときに、受信料の規定を改正しなかったから、ワンセグ機能付き携帯電話では受信料を徴収できないというロジックだ。言い換えれば、放送法改正を怠った総務省の怠慢だというわけだ。そこで総務省が過剰に反応したのだろう。
もちろん、裁判はこれから控訴があるのでまだ確定したものではない。しかし、放送法を改正しておけば何も問題はなかったはずだ。いくら昔の年代を持ちだしても、携帯も存在しなかったような時では説得力もないだろう。時代に合わせて法改正するという基本が総務省には欠けていたといわざるを得ない。そもそも、受信料の規定を改正しようとすると、今の受信料制度を維持できるかどうかも怪しくなる。だから改正しなかったのだろう。
この際、ワンセグでは受信料を取らないと宣言して、日本独自のワンセグ技術を世界に広めるくらいの発想の転換をしたほうがいいだろう。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)、「日本はこの先どうなるのか」(幻冬舎)など。