ワンセグ放送を視聴できるスマートフォンなどの携帯電話が、放送法で規定する「受信機」にあたるのかどうか、判断が揺れている。
「受信機」に当たるとすれば、日本放送協会(NHK)に受信料を支払わなければならないケースが出てくるが、さいたま地裁の大野和明裁判長は2016年8月26日、「携帯電話の『携帯』は、放送法が規定する受信設備の『設置』にはあたらない」と、支払い義務はないとの判断を示していた。
さいたま地裁「義務なし」、高市総務相「義務あり」
最近は自宅にテレビを置かず、通勤電車などでワンセグ機能付き携帯電話を使ってテレビを楽しんでいる人は少なくない。そういった人が、NHKに受信料を支払う義務があるのかどうかが争われた裁判で、2016年8月26日、さいたま地裁で判決が下りた。
ワンセグ機能付き携帯電話の所有者が、放送法64条1項で受信契約の義務があると定められている「放送を受信できる受信設備を設置した者」にあたるかが問われたもので、NHK側はワンセグ機能付き携帯電話が「広義の設置に当たる」と主張。しかし、大野裁判長は判決で、ワンセグ機能付き携帯電話などを使った放送を規定した放送法2条14号では「設置」と「携帯」が区別されていると指摘。放送法64条1項の「設置」が「携帯」を含むとするNHK側の主張には「相当の無理があると言わざるを得ない」と述べ、契約義務はないと判断した。
この判決を受けて、高市早苗総務相は9月2日の閣議後の記者会見で、「携帯受信機も受信契約締結義務の対象と考えている」と述べ、「総務省として『受信設備(受信機)を設置』するということの意味を『使用できる状態にしておくこと』と規定した『日本放送協会放送受信規約』を昭和37年3月30日に認可している」と、ワンセグ機能付き携帯電話も「受信機」の対象となるとの判断の根拠に示した。
この高市総務相の発言はNHK擁護とも受け取られかねないものだっただけに、インターネットでは、
「おいおい、司法判断は無視ですか?」
「ワンセグを見たくて携帯電話を買うわけではないし、機能が付いているからといって見るとは限らない」
「文句ばかり言ってないで、ちゃんと判決に従えっつーの」
「NHKの受信規約がコンプライアンス違反ってことか?」
などと、NHKや高市総務相に批判的な声が寄せられている。
「携帯用受信機」とは何か
NHKの受信契約は、「受信設備(受信機)」を持っていて、それがテレビ放送を受信できる状態であることが条件。つまり、受信機を持っているのであれば、NHKと契約を結ばなければならなくなる。
ただ、受信契約は世帯ごとなどで、世帯主などが受信料を収めていれば、ワンセグを利用してスマートフォンなどでテレビを見ても受信料はかからない。
受信機について、NHKのホームページ(日本放送協会放送受信規約)には「家庭用受信機、携帯用受信機、自動車用受信機、共同受信用受信機など、NHKのテレビジョン放送を受信することのできる受信設備」と書かれている。総務省は、「NHKの受信規約には、受信機に『携帯用受信機』とあり、(ワンセグ機能付き携帯電話が)これに当たります」と、高市総務相が言う「認可」していることは間違いないという。
しかし、それ以上明確な記載はなく、おそらく「家庭用受信機」にはテレビや受信機能付きビデオレコーダー、パソコンがあるとみられ、「携帯用受信機」にはワンセグ付きの携帯電話やタブレット端末が、また「自動車用受信機」にはチューナー付きカーナビゲーションが含まれているとみられる。
そうしたなか、総務省はNHKがワンセグ機能付き携帯電話を持っていることを理由に受信契約を結んでいるケースについて、近くNHKから事情を聴くことを明らかにした。高市総務相の「指示ではない」という。
2016年9月7日のJ-CASTニュースの取材に、総務省は「NHKの受信契約は国民の関心事でもあるので、受信契約の実態を知る必要があります」と、聞き取り調査の目的について話した。
具体的には、自宅にテレビは置いていないが、ワンセグ付き携帯電話を持っているためにNHKと受信契約を結んでいる人がどのくらいいるのかを、NHKから聞き取る。総務省としてはこれまで、まったく数字を持っていないという。
そのうえで、総務省は「NHKが控訴する方針のため、訴訟の推移をしっかりと見守っていきたい」と話しており、総務省として、あらためて結論を出すには時間がかかりそうな雲行きだ。