昔から満月になると赤ちゃんを生む人が増えるという言い伝えがあるが、東京大学の米澤智洋准教授らの研究チームがそれを乳牛で初めて確認し、米医学誌の「プロスワン」(電子版)の2016年9月1日号に発表した。
研究チームでは、「この成果を人間の出産の研究につなげることができれば」と期待している。
海水と同じ羊水が、月の引力の影響を受ける?
月の満ち欠け(月齢)と出産との関連については、洋の東西を問わず、昔から「満月の頃は出産が増える」と経験的にいわれてきた。その理由については、月の明るさが体内のホルモンの分泌に関係している、満月から新月までのサイクルが約28日で女性の生理と一致する、子宮内の羊水の成分が海水に似ており、潮の満ち引きのように月と地球の引力の影響を受ける、など様々な説があるが、明確に証明した研究はまだ出ていない。
人間の場合は、現代的な設備で出産するようになったうえ、母体の栄養状態や遺伝要因など複雑な要素がからんでいるため、研究が難しい。そこで、研究チームは「人間で調べることが難しい問題は、家畜で調べよう」(米澤准教授)と、北海道の農場の協力を得て、乳牛のホルスタインの出産を調査した。2011年9月から2013年8月までの3年間で、人工的な明かりがない牛舎で自然分娩をした428頭について、誕生日と月の満ち欠けとの関係を調べた。
その結果、新月からの3日間に生まれたのは48頭だが、月が満ちていくにつれて出産数は増え、満月までの3日間では71頭と、新月の頃の約1.5倍になった。満月を過ぎると出産数は減り始め、出産数のグラフは満月の前後を最大、新月の前後を最小とする波型になった。
米澤准教授は「満月の頃に出産率が高まるという俗説が、乳牛にあてはまることを見出しました。理由はまだはっきりしませんが、さらなる研究で人間にもあてはまる結果が得られるのではないかと期待しています」と東大の発表資料の中でコメントしている。