2020年東京五輪に向けた「4年」がはじまった スポンサー企業がやるべきことはなにか?

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   金12個、銀8個、銅21個――。日本人選手のメダルラッシュに沸いたリオデジャネイロ・オリンピック。閉会式のフラッグ ハンドオーバーセレモニーで、五輪旗が小池百合子・東京都知事に手渡されたことで、いよいよ、2020年の東京大会の開催を実感した人は少なくないだろう。

   リオ五輪の開催中には、スポンサー企業が多くの選手たちを応援するメッセージを、メディアを通して目にしたが、4年後の東京五輪でも選手の活躍を支え、五輪ムードを高めていくためにもスポンサー企業の役割は小さくない。

   これまで数々の国際大会で「スポーツ」と「企業」のコミュニケーションをサポートしてきたフライシュマン・ヒラードのJ.J.カーター最高執行責任者(COO)に、日本の五輪スポンサー企業がやるべきことはなにか、聞いた。

  • 数々の国際大会で「スポーツ」と「企業」を橋渡し… フライシュマン・ヒラードのJ.J.カーター最高執行責任者(COO)
    数々の国際大会で「スポーツ」と「企業」を橋渡し… フライシュマン・ヒラードのJ.J.カーター最高執行責任者(COO)
  • 数々の国際大会で「スポーツ」と「企業」を橋渡し… フライシュマン・ヒラードのJ.J.カーター最高執行責任者(COO)

「ストーリー」をつくること、「6つのリスク」に対応すること

   ―― 企業が五輪のスポンサーになる意味とはなんでしょうか。

   J.J.カーター ひと言でいえば、それは企業が五輪・パラリンピックを成功させるため、さまざまな支援に取り組むことです。消費者、国民といっしょになって五輪ムードを盛り上げていくこと。そのような動きにもっていく役割が、スポンサー企業にはあります。

   もちろん、企業は五輪を通じて認知度を高め、業績を伸ばしたいと考えているからスポンサーになるのですから、そこから得られる成果も大切です。

   それを両立することに意味があります。

   ―― 2020年に東京五輪・パラリンピックがあります。スポンサー企業はそれに向けて、どのような準備が必要ですか。

   J.J.カーター 準備には2つあります。一つは「ストーリー」をつくっていくことです。リオ五輪の閉会式のときには、もう世界が次の開催地『東京』に注目しています。つまり、それがストーリーのはじまりなのです。

   たとえば、これまでは五輪の競技とともに、スポンサー企業のロゴマークがテレビやラジオなどのメディアに現れることで企業イメージの向上が図れましたが、ここ数年のデジタル化によって訴求手段は急速に広がりました。しかも、スピーディーに伝えることができるようになりました。ストーリー性を高めることで同じイメージでより伝わりやすくできるようになったのです。

   もう一つは「危機管理」です。五輪スポンサーには、コスト、準備期間、インフラ、セキュリティーなどの共通する6つのリスクがあります。そういったリスクへの対応が必要になります。

   これからの4年間は、「ストーリー」づくりと「危機管理」のための準備期間です。準備の仕方で、国民や世界に向けたインパクトが変わってきます。

   ―― 「リスク」への対応とは、具体的にどのようなものなのでしょう。

   J.J.カーター たとえば、ソチ冬季五輪のときには人権問題がありました。ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)でネガティブな情報が露出したのです。

   こうした問題が突発的に起こったとき、スポンサー企業はとるべき対策を考えておくことが必要です。本来はネガティブな情報に対しても、企業は免疫力をつける必要がありますし、リスクを事前に想定して見抜く目が大切になります。その準備をすることで、リスクが回避できます。

   たとえば、今回のリオ五輪からも企業が学べることや、東京大会に向けて、いまから準備できることがあります。それは起ったことを早く分析して準備する。知っておいて心構えをしておく。株主がネガティブな情報にどう動くのか、見ておくこと。やらなければならないことは多いはずですが、想定することができれば、いざというときに早く対応できます。

五輪エンブレムや国立競技場の建設問題、「どこの国にもあること」

   ―― 五輪エンブレムや国立競技場の建設問題など、すでに日本では開催準備に四苦八苦しています。海外からは、どのように見えているのでしょうか。

   J.J.カーター 国を挙げての準備ですから、みんな納得すること、100%満足することなどありません。開催ギリギリまで準備が整わないことなどは、これまでの五輪でもあったことですし、(五輪エンブレムやメインスタジアムの建設などの問題は)どこの国でもあることで、一つのプロセスだと考えたほうがいいでしょう。

   どのようなことでも、さまざまな意見があります。重要なのはそういった意見を取り込んで、透明性を確保することではないでしょうか。

   ―― 五輪を通じたスポンサー企業のPRで、成功した事例を教えてください。

   J.J.カーター たとえば、ドイツの自動車メーカー大手のBMW(北米BMW)が、米国の五輪チームをサポートしたケースがあります。それは、そもそも北米BMWが米国チームのスポンサーになることがいいのか、というところからはじまりましたが、当初のシンプルなアイデアからストーリーを起こして、実現していったのです。

   米国チームは2012年のロンドン五輪に向けて、陸上のジャンプ競技と、水泳ではターンでのドルフィンキックに課題を見つけていました。課題の解決には速さを測定する技術が重要で、BMWは車両試験用のカメラに着目。その技術を米国チームに提供したのです。それにより、選手のパフォーマンスデータをより精緻に入手できるようになり、成果を得ました。

   さらに2014年のソチ冬季五輪では、このロンドン五輪の実績をもとに、BMWのデザイナーチームが米国のボブスレーのそりをデザイン。そのそりがソチ五輪で滑走したのです。実際に競技を観戦した人や、テレビをはじめ、その映像を多くの人が目にしました。メディア広告やPR記事、SNSなどのすべてに露出しましたから、大きなPR効果をもたらしました。

   ―― これまで日本では、スポーツを企業がPRとして活用することを好意的に思わなかったり、それによってPR活動そのものが少なかったりしました。企業のスポーツを通したPR活動はどのように取り組んでいくべきなのでしょうか。

   J.J.カーター氏 たしかにスポーツとビジネスは、難しい関係にあります。ただ、スポーツ、なかでも五輪は「スポーツ」というだけではありません。お祭りであり、お祝い事と考えることがいいのだと思います。そこには地域や文化、アート、歴史も入ってきますから、広範な行事といえます。

   地域、文化の重要性や希少性、そういったものを包含した、一つのストーリーをつくれるかどうかが企業のPR効果につながると考えます。もちろん、そのストーリーはスポンサー企業の企業理念にそったものでなければなりません。正しいメッセージのトーンを考えることに時間を使うことを考えるべきで、それができれば消費者などの理解は得られると考えます。


J.J.カーター氏 プロフィール

2005年、フライシュマン・ヒラード入社。現在、米国イースト&ウエスト・リージョン、カナダ、メキシコのプレジデントを務める。ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、トロント、カルガリー、オタワなどのオフィスを統括する。同社のネットワーク会社であるハイ・ロード・コミュニケーションズとロイス・ポール・パートナーズの統括も兼務している。

フライシュマン・ヒラード入社前には、プロ・テニス選手協会(ATP)、男子プロ・テニス委員会の広報ディレクターとして、広報業務、デジタルプロパティに携わった経験もある。

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