五輪エンブレムや国立競技場の建設問題、「どこの国にもあること」
―― 五輪エンブレムや国立競技場の建設問題など、すでに日本では開催準備に四苦八苦しています。海外からは、どのように見えているのでしょうか。
J.J.カーター 国を挙げての準備ですから、みんな納得すること、100%満足することなどありません。開催ギリギリまで準備が整わないことなどは、これまでの五輪でもあったことですし、(五輪エンブレムやメインスタジアムの建設などの問題は)どこの国でもあることで、一つのプロセスだと考えたほうがいいでしょう。
どのようなことでも、さまざまな意見があります。重要なのはそういった意見を取り込んで、透明性を確保することではないでしょうか。
―― 五輪を通じたスポンサー企業のPRで、成功した事例を教えてください。
J.J.カーター たとえば、ドイツの自動車メーカー大手のBMW(北米BMW)が、米国の五輪チームをサポートしたケースがあります。それは、そもそも北米BMWが米国チームのスポンサーになることがいいのか、というところからはじまりましたが、当初のシンプルなアイデアからストーリーを起こして、実現していったのです。
米国チームは2012年のロンドン五輪に向けて、陸上のジャンプ競技と、水泳ではターンでのドルフィンキックに課題を見つけていました。課題の解決には速さを測定する技術が重要で、BMWは車両試験用のカメラに着目。その技術を米国チームに提供したのです。それにより、選手のパフォーマンスデータをより精緻に入手できるようになり、成果を得ました。
さらに2014年のソチ冬季五輪では、このロンドン五輪の実績をもとに、BMWのデザイナーチームが米国のボブスレーのそりをデザイン。そのそりがソチ五輪で滑走したのです。実際に競技を観戦した人や、テレビをはじめ、その映像を多くの人が目にしました。メディア広告やPR記事、SNSなどのすべてに露出しましたから、大きなPR効果をもたらしました。
―― これまで日本では、スポーツを企業がPRとして活用することを好意的に思わなかったり、それによってPR活動そのものが少なかったりしました。企業のスポーツを通したPR活動はどのように取り組んでいくべきなのでしょうか。
J.J.カーター氏 たしかにスポーツとビジネスは、難しい関係にあります。ただ、スポーツ、なかでも五輪は「スポーツ」というだけではありません。お祭りであり、お祝い事と考えることがいいのだと思います。そこには地域や文化、アート、歴史も入ってきますから、広範な行事といえます。
地域、文化の重要性や希少性、そういったものを包含した、一つのストーリーをつくれるかどうかが企業のPR効果につながると考えます。もちろん、そのストーリーはスポンサー企業の企業理念にそったものでなければなりません。正しいメッセージのトーンを考えることに時間を使うことを考えるべきで、それができれば消費者などの理解は得られると考えます。
J.J.カーター氏 プロフィール
2005年、フライシュマン・ヒラード入社。現在、米国イースト&ウエスト・リージョン、カナダ、メキシコのプレジデントを務める。ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、トロント、カルガリー、オタワなどのオフィスを統括する。同社のネットワーク会社であるハイ・ロード・コミュニケーションズとロイス・ポール・パートナーズの統括も兼務している。
フライシュマン・ヒラード入社前には、プロ・テニス選手協会(ATP)、男子プロ・テニス委員会の広報ディレクターとして、広報業務、デジタルプロパティに携わった経験もある。