東京都の小池百合子知事は2016年8月31日会見し、11月7日に予定されている築地市場(中央区)の豊洲市場(江東区)への移転を延期すると発表した。豊洲市場の地下水のモニタリング調査の最終結果(17年1月)を待たずに「見切り発車」はできないという理由だ。
その後の移転時期については、新たに発足させる「市場問題プロジェクトチーム(PT)」の検討結果を踏まえて判断するとして、具体的なスケジュールについては、モニタリングの最終調査結果が出ることを前提に「できるだけ速やかに」と述べるにとどめた。「延期」ではなく「中止」になる可能性についても、「PTの精査を待ちたい」と明言を避け、否定しなかった。
地下水最終調査結果確認は「譲ることができない」
小池氏は延期の理由として、(1)安全性への懸念(2)巨額かつ不透明の費用の増加(3)情報公開の不足の3つを挙げた。
(1)の主な根拠が、豊洲市場の地下水モニタリングの経緯だ。モニタリングは14年11月から計9回行われており、最後の第9回調査では16年11月18日以降にサンプルを採取することになっている。その結果が発表されるのは17年1月だ。小池氏は、
「少なくとも2年間のモニタリング調査の結果を見届けるというのは、安全性の確認、その説得力ということにおいては、譲ることができないと考えている」
などと「見切り発車」を批判した。
(2)では、建設費が11年2月に990億円、13年1月に1532億円、15年3月に2752億円に急膨張していることを問題視。資材費の高騰を踏まえたとしても、小池氏は
「それにしても、3倍近い増大に関しては、これはきちんと精査する必要がある。ちゃんと都民に説明する必要がある」
とした。豊洲新市場の建設費の坪単価は約220万円という試算も紹介。相場の50~60万円からは大きく上回っており、坪単価約200万円を超える例として国立新美術館(約260万円)を挙げながら、建設費高騰の経緯を検証する考えを示した。
これに加えて小池氏は、
「こんなにお金をかけていながら、そこで仕事をする業者さんから、いまだに不満が多く出てくるのは、一体何なのか。849億円もかけて土壌汚染対策をするのに、安全に対する疑問が絶えないのは一体何なのか」
などと情報公開や情報の伝え方が不十分だったことを指摘した。
「市場問題プロジェクトチーム」に丸投げ
こういった問題を検証するため、弁護士の小島敏郎・東京都顧問を中心に「市場問題プロジェクトチーム(PT)」を立ち上げる。建築の専門家や土壌の専門家ら6人程度で構成し、運営はすべて公開。ネット中継も念頭に置いている。
移転時期は「調査の結果、速やかに判断」としており、小池知事も「できるだけ速やかに」と述べるにとどめた。
また、記者から「移転ではなく中止もあるのか」との趣旨の質問には、「PTの精査を待ちたい」と述べて、「中止」の可能性を否定せず、判断をPTに委ねる姿勢を見せた。
市場の移転が遅れると、築地市場跡地に建設が予定されている環状2号線の建設が遅れ、2020年の東京五輪・パラリンピックに間に合わないという指摘もある。小池知事は、
「どのような工法で、どのようなやり方でそれが実現できるのか、それについても工事のあり方について検討し、五輪・パラリンピックについては快適な環境でできるようなことを、一応は想定している」
などと工期が遅れたとしても五輪には間に合わせる考えを示した。
小池知事のあとに記者会見した小島氏は、PTとしての結論を出すためには豊洲の「使い勝手」を検証するための実証実験が必要だとして、
「できるだけスピーディーに調査したいと思っているが、実際に豊洲が稼働している状況、つまり多くのターレー(運搬車)が動いているとか、ウイングの横開きのトラックがこれくらい入ってくるとか、そういうことが必要。それには業者さんの協力を得ないといけない」
「メドは、業者さんの協力を得ると年末年始はお忙しいから得られないから、11月前に話がまとまればその前に実証実験ができるし、それができなければ年を越しちゃう。できるだけ年内にやりたいと思う」
などと述べた。新たな移転時期の判断には、モニタリング調査と実証実験の結果を合わせて検討する必要がある。どんなに短くても2~3か月は移転が遅れることになりそうだ。
都との訴訟「かなり業者さんに厳しい」
当面の焦点になりそうなのが、市場に入居する業者にかかるリース代などの問題だ。11月7日移転を前提にしていた業者にとっては二重の負担を強いられることになる。小池氏は
「実際にご意見を聞いて、どのような対応ができるか考えて参りたい」
と述べるにとどめた。小島氏は、仮に損害賠償請求訴訟に発展した場合は、過去の最高裁判決では「かなり業者さんに厳しい」と指摘した上で、
「東京都と業者さんは継続的なお付き合いをしていくわけだから、最高裁判決をかざして『こういうものになる』などというやり方が好ましいとは思わない。そういう中で解決していくことになると思う。色々な支援措置を考えていく。色々な話し合いのチャネルを持って解決する方が、双方にとって良い結果になると思う」
と、補償交渉に含みを持たせた。