江戸時代に高利貸しが貧乏人から取り立てる際に足をカタカタとゆすることから名付けられたという「貧乏ゆすり」。子どもの頃に「下品だからやめなさい!」と叱られた人も多いだろう。
ところが最近、貧乏ゆすりの健康効果が次々と明らかになっている。「健康ゆすり」と呼ぶべきだという研究者もいるほどだ。
熊本地震で死者が出た「肺塞栓症」を予防する
近年、長時間座りっぱなしでいることが健康に良くないという研究が相次いでいる。特に問題になっているのが「肺塞栓症(はいそくせんしょう)」(通称エコノミークラス症候群)だ。飛行機のエコノミークラスで長時間狭い椅子に座った状態でいると血流が悪くなり、血液が固まる。この固まり(血栓)が、椅子から立ち上がり血液の流れがよくなった途端、肺の血管に達して詰まらせ、突然死を引き起こす場合がある。2016年4月の熊本地震では、車中泊を続けた避難者の中に、この病気で死亡する人が多く出た。
太ももは「第2の心臓」と呼ばれる。大腿四頭筋(だいたいしとうきん)という強大な筋肉が走っており、貧乏ゆすりで足をカタカタ動かすことによって大腿四頭筋がポンプのように足の動脈を伸縮させ、全身に血液を行き渡らせるのだ。
2016年7月、米ミズーリ大学のジャーム・パディーラ助教授が、学生に貧乏ゆすりをしてもらい、動脈の働きを測定した研究を米の生理学専門誌に発表した。健康な若者11人に3時間椅子に座ってもらい、その前後の血管機能を比較した。座っている間、片方の足を1分間カタカタと動かし、4分間休むことを繰り返し、もう片方の足は動かさないようにした。被験者は平均で1分間に約250回足を動かした。
被験者の両足には血流を測る装置を装着して計測した。貧乏ゆすりをした方の足の血流は盛んになったが、動かさなかった足の方は逆に血流が減少した。パディーラ助教授は「立ったり歩いたりして、できるだけ座り続けないことが大事だが、それが無理な場合は、貧乏ゆすりをすることが循環器系の健康にはいい」と語っている。