自民党、今度こそ脱「オオカミ少年」?  「配偶者控除」見直しへの本気度

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   政府税制調査会で、専業主婦世帯を優遇する「配偶者控除」の見直しが大きな焦点になる見通しだ。ここ数年、毎年のように「最大の焦点」と叫ばれ続けながら、一向に実現しない「オオカミ少年状態」ともいえるテーマだが、今度こそ本当に前に進むのか。

   政府税調の議論は2016年9月から始まり、並行して自民党税調でも調整を進め、年末に中長期的な方向と、2017年度の税制改正の中身が決まる。

  • 「配偶者控除」の見直しは前進するのか?(画像はイメージ)
    「配偶者控除」の見直しは前進するのか?(画像はイメージ)
  • 「配偶者控除」の見直しは前進するのか?(画像はイメージ)

103万円の壁

   今年の税制議論の号砲を鳴らしたのが8月8日の経済財政諮問会議(議長・安倍首相)だ。第3次安倍再改造内閣の重点課題を議論した中で、民間議員が年末に向けた政策課題の提言として、配偶者控除の見直しについて、「女性が働きやすい税制の実現に向け、今年中に道筋を明らかにすべきだ」と求めたのだ。

   控除は、課税の対象になる所得から一定額を差し引く「所得控除」と、税額から一定額を引く「税額控除」があり、配偶者控除は前者。控除額を差し引いた残りの所得に税率をかけるので、その分、税金が少なくなる。

   配偶者控除は、受けられる妻の年収が103万円以下。これを超えて稼ぐと控除が受けられなくなり、夫の所得税がかえって増えて世帯収入が減る「逆転現象」が起きる。このため、パート収入を年間103万円以内にとどめる「103万円の壁」があり、女性の社会進出を妨げているとされる。

   2014年3月に安倍首相は制度の見直しを指示したが、年末総選挙への流れの中で、結論は先送りされた。さらに、2015年6月末に閣議決定した経済財政運営の「骨太の方針」で、所得税改革の方針が示されたが、安保法制強行による政局の混迷、消費税の軽減税率導入問題に吹き飛ばされた形で再び先送りされた。その意味で、今回は安倍政権として「3度目の正直」になる。

「夫婦控除」創設案

   ただ、この間、事態が進んでいないわけではない。

   まず、基本的な論点整理はすでに終えている。2014年に最終結論は先送りされた時も、政府税調として5案を提示済みだ。(1)配偶者控除廃止、(2)所得制限導入、(3)配偶者の収入に関わらず夫婦の所得控除枠を一定にする、(4)同様に夫婦の税額控除の枠を一定にする、(5)新たに「夫婦控除」創設――の5つで、当時から(5)が最有力とされている。

   (5)は、配偶者控除は廃止し、夫婦であれば誰でも控除が受けられる「夫婦控除」に転換する方向ということだ。ただ、所得税改革は配偶者控除だけでなく全ての控除制度を見直し、改正の前後で税収がほぼ等しくなる「税収中立」で実施するのが前提で、子どもがいる世帯の負担を減らすとともに、全体として低所得者は減税し、高所得者は増税する方向だ。その場合、従来のように「所得控除」を増やすのでは、年収の少ない人への恩恵が少ないので、年収が低い人ほど税負担軽減の効果が大きい税額控除やゼロ税率という仕組みの採用を検討するとみられている。配偶者控除に代わって夫婦控除に転換するにしても、「税額控除」を活用する可能性がある。

   実は、配偶者控除に関してこの間、選挙のたびに自民党公約は書きかえられている。先の参院選では最新の公約が示された。政府関係者は、自民党の姿勢について「今度こそ、本気で配偶者控除を見直す」と指摘する。

   自民党は2013年の参院選公約の「総合政策集」で「財政健全化への着実な歩み」の項の中で、「(所得税について)社会の基本は『自助』にありますから、家族の助け合いの役割も正しく評価されなければなりません。その観点から、配偶者控除は維持し、児童手当との関係を整理した上で年少扶養控除を復活します」と、配偶者控除維持を明言していた。

   これが2014年12月の総選挙公約では、「すべての女性が輝く社会の実現を」の中で、「働き方に中立的な税制・社会保障制度等について、総合的に検討します」と書いたのみで、「配偶者控除維持」は落ちたが、まだ、どっちつかずの印象だ。

「保育園不足や老親の介護などがはるかに大問題」との指摘

   ところが今年、2016年の参院選公約の後半、細かい政策を羅列した「政策バンク」の「II 女性活躍」の「女性の自立を支える法制度改革」の中で、次のように謳った。

「配偶者控除や第三号被保険者制度など、女性の活躍促進に大きく関連する税・社会保障制度は、女性の生き方・働き方に中立的なものとなるよう本格的に見直します」

   「廃止」の2文字こそないが、配偶者控除見直しを、正面から宣言している。ちなみに、「第三号被保険者制度」は、配偶者控除の「103万円の壁」と並び、主婦の年収が130万円を超えると年金保険料の支払いが求められ、家計の手取りを減らす「130万円の壁」のことで、両者をセットに議論するというのが公約なのだ。

   給与面でも、民間企業で「配偶者手当」を廃止する動きが出始めているのに続き、国家公務員について、人事院が8月8日、配偶者手当を2017年度から段階的に減額し、課長級は2020年度に廃止するよう勧告した。これらも、配偶者控除見直しの流れと軌を一にするものだ。

   とはいえ、配偶者控除に手をつければ、専業主婦のいる世帯などで増税になる可能性があり、反発を招きかねない。そもそも、自民党には「母親は家で子育てすべきだ」という保守的な家庭観は根強い。

   「働くか働かないか、どの程度働くかという女性の働き方の判断に影響を与えない中立的な制度にするには、配偶者控除廃止が筋」(政府税調関係者)という筋論は理解したうえでも、「女性の社会進出の上で、保育園不足や老親の介護などがはるかに大問題で、配偶者控除は本命ではない」(大手紙経済部デスク)と指摘もある。

   首相は閣僚に「働き方改革相」を置き、長時間労働の是正や女性の活躍に向け、今(16)年度中に働き方改革の「実行計画」をまとめる方針だが、これと並行して、配偶者控除の見直しにどこまで踏み込めるか、首相のリーダーシップを含め、注目される。

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