マツダが、1989年にデビューした初代ロードスターのレストア(修復)サービスをメーカーとして行う方針を明らかにした。車検で必要となる部品をメーカーが責任をもって供給し、初代ロードスターを今後もマツダの正規ディーラーで整備できるようにする。日本の自動車メーカーが本格的なレストアサービスに乗り出すのはマツダが初めて。このニュースは日本経済新聞が取り上げるなど、「日本の自動車文化」を変える動きとして反響を呼んでいる。
ロードスターの開発責任者であるマツダの中山雅氏が2016年8月5日、千葉市の幕張メッセで開かれたイベント「オートモビル カウンシル」で、「古い車を愛でるというクルマ文化を日本の社会に育んでいくことにも挑戦していきたい。そのため、初代ロードスターのレストアサービスとサービスパーツの維持、供給について、マツダとして正式に検討を開始した」と述べた。2017年度後半のサービス開始を目指しているという。
部品確保・メンテナンスが年々困難に
中山氏の発言はサプライズだった。初代ロードスターは愛好者が多く、デビューから27年が経過した今も、町中で勇姿を見かけることが多い。しかし、オーナーにとって初代ロードスターのメンテナンスは年々困難になっていた。
自動車は新車で購入しても、生産中止から10年を超えるとメーカーの純正部品の供給が少しずつ少なくなっていく。製造物責任法(PL法)は消費者の実際の使用期間等を踏まえ、製造物の責任期間を「製造事業者(メーカー)が製造物を引き渡してから10年」と定めているからだ。製品の機能を維持するために必要な部品(性能部品)の保有期間は、メーカーが自主的な内規等で定めることになっている。自動車はオーディオなど電気製品やカメラに比べれば、性能部品の保有期間は長いが、それでも限度がある。
経済産業省によると、2013年の乗用車の平均使用年数は12.58年となり、1990年に比べ3.32年伸びた。自動車の長寿化に合わせ、メーカーの部品の保有期間も長くなっているが、15年、20年と経過するうちに部品には欠番が生じ、ディーラーでの車検取得さえ困難になっていく。
古いクルマを歴史遺産とみなす文化
生産中止から30年、40年と経過したクラシックカーの場合、購入したディーラーであっても相手にされなくなるため、オーナーは部品取り用に同じクルマをもう1台所有するなどして部品確保に努めている。スカイライン2000GT‐Rやスバル360など、一定数のオーナーがいる人気車であれば、欠番部品をオーナーズクラブが特注して作り直すこともできるが、コスト高は免れない。クラシックカーのオーナーは自分で部品を探して必要な整備をこなすか、専門的な知識のある自動車整備工場に依頼するしかなかった。
初代ロードスターに限らず、一般のオーナーが生産中止から20年以上経過したクルマを長く乗るには、やはりメーカーに部品供給を続けてもらい、ディーラーで整備や車検取得をしてもらうのが一番安心できる。メーカーにとっては、少数の部品の在庫を抱えるのはたいへんだろうが、マツダの場合、初代ロードスターの「生存率」が高いことが、レストアサービスに踏み切る理由となったとみられる。
英国やドイツなど欧州では古いクルマを歴史遺産とみなし、動態保存するとともに、コンクールやモータースポーツを通じて楽しむ文化がある。今回、マツダが初代ロードスターの価値を認め、自ら動態保存に動き出したことで、日本でもこうした文化が根付く可能性が出てきた。他メーカーの追随を期待する声もある。