非常に強い台風10号が2016年8月26日午後、沖縄県南大東島の南約300キロメートルの位置からゆっくりと東に進み始めた。週明けの29日にも、勢力をさらに強めて本州に上陸。首都圏を直撃する可能性も出てきた。
台風10号は、8月19日に八丈島近海にあった熱帯低気圧が変化して発生。同時に近くで発生した9号や11号が北上した一方で、日本の南海上を南西に進んでいた。それが沖縄の東の海域で勢力を蓄え、踵を返すように本州に「Uターン」するという、台風とは思えぬ動きで話題になっている。
Uターンは1964年の台風14号以来?
気象庁によると、日本の南海上で迷走をしていた、非常に強い台風10号(「ライオンロック」=香港にある切り立った岩山の名前)は、2016年8月26日には南大東島付近にとどまっているが、その後、27日にはくるりと進路を東北東に変えて「Uターン」。しだいに速度を上げながら、29日から30日にかけては本州に上陸する可能性が高く、広い範囲で大荒れの天気となる恐れがある。
台風が「Uターン」して戻ってくる動きは珍しい。気象庁は、「これまでも複雑な動きをする台風はありました。1964年の台風14号は似ていると言えなくもないですね。このときは九州に上陸していますが、今回の10号はそれよりも南側を東北東に進むとみています」と話す。
では、なぜこうした「Uターン」が起ったのか――。気象庁によると、「そもそも、台風は周りの大気の流れに乗って動きます。一般的には、夏の太平洋高気圧のヘリにそって北上していくのですが、今回の台風10号はその太平洋高気圧が東に偏っていたこと、また大陸(西)側にも高気圧があったことから、その間に挟まって北上できずにゆっくりと西に進路を取り、南大東島付近で停滞していました」と説明する。
逆に、同じ時機に発生した台風9号と11号は、東側の高気圧がもたらす時計周りの風にうまく乗れたため、北上できたという。
さらに停滞していた10号が、突然その矛先を本州に向けたのはなぜだろう。「それは東にある高気圧の『形』が変わってきたためです。東の高気圧が西に張り出して、台風の下(南側)に入り込んできたことに加えて、偏西風が蛇行していることで南から北への風に乗りました」と説明する。この偏西風に乗ったわけだ。
とはいえ、予報によれば10号は日本の南海上を進み、30日に、今度は急に北上しはじめる。「北への進路は偏西風によるもの。蛇行している偏西風が南側に下がり、渦を巻きながら反時計回りの風が吹くことで、西から東北東に動いてきた台風が北西に進路を変える結果といえます」と話す。
気象庁は今後の進路について、「現段階での予報は29日までのものなので、首都圏を直撃するかどうかは、まだわかりませんが、北上して本州に上陸。日本海に抜けていくとみています」と話し、本州を太平洋側から日本海へ縦断する可能性は高いようだ。
27日には最大風速が50メートル「非常に強い」
一方、台風10号は勢力も強い。10号が停滞している南大東島周辺の海域は、海水温が高く、海水から水蒸気や熱を受けて発達する、台風の「条件」が整っているとされる。そこで、たっぷりとエネルギーを蓄えた。
気象庁によると、台風の強さには「強い」「非常に強い」「猛烈な」の3段階がある。10号の場合、2016年8月25日の「強い」から、26日には「非常に強い」台風になった。さらに強くなれば、「猛烈な」という表現が使われるようになる。
気象庁は、「強い」台風の風速を、秒速(10分間の平均)33メートル~44メートル、「非常に強い」を44メートル~54メートル、「猛烈な」を54メートル以上と決めている。
台風10号は、27日15時(予測)の中心付近の最大風速が50メートルと予測。中心付近の気圧でみると930ヘクトパスカル(hPa)と、まだ「非常に強い」台風ではあるが、かなり強烈な勢いがあるとみられる。
首都圏への影響は、27日あたりから、南海上から暖かく湿った空気が流れ込むため、台風の接近とともに、上陸する前から山間部を中心に大気の状態が不安定となり、雷を伴った激しい雨の降るところがある。
降水量も多くことも予想され、22日午後に千葉県に上陸、翌23日には北海道にも上陸した台風9号による大雨で地盤の緩みや河川の水位が高い地域では、いつも以上に土砂災害や浸水害に注意が必要。また沿岸部での越波や高潮、強風などにも警戒が必要になる。
気象庁は「本州への上陸が予想される29日ごろになると、やや勢力も衰えてきますが、台風9号よりも強い可能性もありますから、今後の予報や警報には十分注意してください」と話す。