「ゲスの極み乙女」川谷絵音妻、金子恵美衆院議員、三遊亭円楽妻、小倉優子さん、ファンキー加藤妻、高島礼子さん......。今年も多くの妻たちが夫の不倫に泣かされた。しかし、不倫が発覚するのは氷山のほんの一角。
大多数の不倫は気づかれないまま進行し、夫婦円満の生活が続いている。それはなぜか。実は、「不倫男」ほど妻を大切にするからだ。そんな不倫夫の心の奥底に迫った珍しい研究を紹介しよう。
「愛しているよ」と毎日妻にいうマメな不倫夫
研究をまとめたのは、立命館大学大学院先端総合学術研究科の研究者だった松本健輔氏(現在:夫婦カウンセリング「ハミングバード」代表)だ。2010年に同大の学術誌『立命館人間科学研究 第21号』に「婚外恋愛継続時における男性の恋愛関係安定化意味づけ作業」という長いタイトルの論文を発表した。
ざっくりいうと、妻に内緒で不倫をする男は何を考えているのか、また、なぜバレずに(たとえバレても)夫婦関係がうまくいっているのかを心理学的に考察した論文だ。タイトルにある「意味づけ作業」とは、不倫をどういう言い訳やストーリーを作って自己弁護し、罪悪感から逃れているか調べたもの。あくまで心理学研究なので、「不倫」「浮気」といった「社会悪」と決めつける言葉は使わず、「婚外恋愛」という中立的な表現を用いている。
論文は冒頭、女性誌「婦人公論」の調査を引用、「日本人既婚男性の婚外恋愛経験者は50.8%」という衝撃的な数字を紹介する。一方、離婚に関する司法統計では「異性関係」は原因の4番目にすぎず、「婚外恋愛をしながら妻に離婚届を出されない男性がかなりの数存在する」と指摘する。彼らがどのように「夫婦の危機」を乗り切っているのか、その内面に迫るのが論文の醍醐味だ。
松本氏は、知人の紹介で現在婚外恋愛中の男性10人のインタビューに成功した。その中から特に次の4つの条件を満たす男性6人を研究対象に選んだ。
(1)夫婦関係に不満がない。
(2)夫婦の仲が良い。
(3)妻への愛情を持っている。
(4)婚外恋愛の相手と真剣に付き合っている。
おいおい、待ってくれ、そんなムシのいいことできるオトコがいるのかと思わず興奮したアナタ、実際にいるのだ。彼ら6人の概略を紹介すると――。
(1)年齢:29~46歳。全員初婚。子どもの有無:4人に子どもがいる。
(2)婚外恋愛の相手:それぞれ1人ずつ。
(3)婚外恋愛の期間:1~5年、6人中4人が4年以上続いている。婚外恋愛の経験回数:6人中5人が2回以上、1人が1回だけ。
(4)妻との現在の性生活:5人があり、1人がない。
6人に共通しているのは、妻に対する愛情表現が日頃から豊かなことだ。「日常生活の家事を協力する」「記念日はかならずサプライズをする」「毎日、『愛している』と言う」などなど、並みの男性以上に細やかでマメだ。それなのに、なぜ婚外恋愛を始めたのだろうか。いや、マメだから始めるというべきか。
婚外恋愛の相手は人生の大切な「栄養剤」
松本氏は「妻への慣れ」と「性的関係の減退」が生じるからだと分析する。彼らの1人が語っている。
「(妻は)生活の中で見ている人やから、普段部屋に下着も干してあるし、風呂から上がった後、そのへんをぴーと歩いている時もあるし......」
「(裸で)ぴーと歩く」という関西弁の表現が妙に生々しい。妻に対するトキメキや性的魅力が薄れていく。そんな中で婚外恋愛相手との出会いは、人生の「栄養剤」になると松本氏は指摘する。「栄養剤」の具体的要素として、「性的満足」はもちろんだが、「ドキドキ感」と「いつもと違う役割」、そして人間としての「成長」が重要だという。たとえば、「いつもと違う役割」とは――。
「彼女が運転する車に乗った時は、幸せだと思った。今まで付き合ってきた人って車の免許を持っていなかった人が多く、いつも運転する側だったんです。ところが彼女は運転をバリバリにこなし、一緒に乗って、別の空間というのか、新しい空間っていうのを感じましたね」
車を運転するのは男という社会的役割、つまりジェンダーからの解放感を味わえるのだ。こうした「ドキドキ感」は妻との日常生活では得られない。また、男性の友人には弱みは見せられないが、様々な悩みも恋人には話すことができ、内面的に「成長」していく。こうして、婚外恋愛で「栄養剤」を得ることで、精神的な余裕が生まれ、妻にも優しく向き合い、愛おしさが増していく。1人はこう語った。
「(妻、恋人両方の)過去をいっぱい知っているじゃないですか。それこそ、子どもの頃のことまで。自分の場合、付き合った人は苦労した人が多いんです。それを知っているので(妻、恋人の)どっちも大切にしなきゃいけないなって気持ちがするんです」
妻も恋人も両方「一番」なのが不倫の醍醐味
婚外恋愛が普通の恋愛と違うのは、「一番」が複数存在するという異例の状況になることだ、と松本氏は指摘する。彼らに共通しているのは、「(妻、恋人双方の)弱さを知っているから、両方を大事にしてあげたい」という気持ちである。1人はこう語った。
「(妻を大切だと思う理由は)嫁はんが育ってきた環境が大変やったから。俺がいなくちゃだめなのかなと」
よくもまあ、不倫をしながら「俺がいなくちゃ」とヌケヌケと言えるものだが、本心からそう思っているのだ。実は彼らの大半は不倫がバレながら許してもらった経験の持ち主である。バレたことによって、「夫婦の絆がいっそう深まった」という者もいる。「(今度バレても)結局は壊れないだろう」と妙な自信を持つ者さえいる。彼らは、「女性に愛され上手のオトコたちなのか」と驚いてしまうが、この常人には理解しがたい心理を松本氏はこう分析する。
「婚外恋愛を通して、自分は『家族第一』を大切にしてきたという思いがある。それを恋愛相手にも伝えてきた。そのことが後ろめたさを解消するとともに、自分も家族を大切にしてきたのだから、妻も同じように思ってくれているはずだという期待へ姿を変えている」
どうも彼らには「自分もそれなりに努力して夫婦の信頼を作り上げてきた」という自負があるらしい。さすがに、松本氏も「(彼らには)何をしても許してくれる妻像が見え隠れする」と述べている。
いったんは、妻への甘えで自己弁護しながらも、やがて「妻と恋人、どっちも一番」という心の状態は、罪悪感と葛藤を生んでいく。そこで、「恋人との関係は真剣」と言いつつも、「気持ちがある一定以上にいかないようブレーキ」をかけ始める。結局は妻を優先させるのだ。しかし、「栄養剤」として自分を「成長」させてくれる恋人の存在は大きい。
悩みぬいた末の結論が「両方好きやから仕方ないやん」
「妻」と「恋人」、2つの大切な存在の間で彼らは苦しむ。心のバランスを保つために自分の置かれた状態の「意味づけ」を行なう。悩みぬいた末に彼らがたどりついた、「婚外恋愛」を正当化する言葉とは、これだった。
「好きだから仕方がない」
彼らの多くが、「両方好きなんやから、しょうがないやん」という趣旨の言葉を語ったという。そして、さらに、それを認めてくれる「物語探し」を始めるのだ。1人はこう語った。
「そうやって悩んでいる時に、これを許してくれるものはないかと思っていろんなものを探したり......。ヒンズー教の神さま。絵がある。神さまが浮気している絵やねん。そういう人にも許しを与えるみたいな......」
マジっすか~、と言いたくなるが、松本氏によると、「婚外恋愛は世間では『楽しんでいるだけ』というふうに言われるが、(彼らは)高い葛藤と罪悪感にさいなまれていた」そうだ。
それにしても、妻と恋人の両方をとことん大切にしようとする彼らのバイタリティーには脱帽する。だから、くれぐれも独身女性は不倫に走らない方がよさそうだ。また、よくもまあ恋人との間にトラブルが起こらないと感心するが、実は、彼らのうち4人の恋人には夫がいるのだった。「ダブル婚外恋愛」である。彼女たちの「物語」もぜひ論文にしてほしいものである。