「出産後3分間、赤ちゃんのへその緒をつけたままにすると、健康になるってホント?」「そうらしいよ~。運動神経がよくなるんだって!」
誰でも生まれた赤ちゃんの健康を願うものだが、最近、プレママ(妊婦さん)たちのウェブサイトで出産時のへその緒を切るタイミングが話題になっている。日本ではすぐに切るのが一般的だが、欧州では3分ほど待つと、新生児の健康によいという研究が相次いでいるからだ。
切るのを待つと鉄分たっぷりの血が流れて
プレママたちの話題のきっかけになったのは、2015年5月に米の小児科専門誌「JAMAペディアトリクス」に発表されたスウェーデン・ウプサラ大学のオーラ・アンダーソン博士らの研究だ。へその緒(臍帯=さいたい)は、母体の胎盤とつながり胎児に栄養や酸素を供給しているが、生まれたらすぐに切るのが一般的だ。しかし、しばらくつけたままにしておくと、鉄分の豊富な血液が新生児に供給され、ヘモグロビン値がよくなることが経験的に知られていた。ヘモグロビン値がよくなると、新生児がなりやすい鉄分欠乏症(貧血)の心配がなくなる。
アンダーソン博士は、以前の研究では400人の新生児のへその緒を出産後3分過ぎてから切る臨床実験を行ない、生後4か月の時点で鉄分欠乏症の割合が減ることを確認していた。そこで今回は、その後の成長にどんな影響が出るかを調べるため、382人の新生児を出産後3分経過してからへその緒を切るグループと、10秒以内にへその緒を切るグループの2つに分けた。
そして、子どもが4歳になった時点で、知能(IQ)検査と「発達性協調運動障害検査」を行なった。発達性協調運動障害検査とは、運動能力以外に発達障害の有無や、年齢に応じた社会性と協調性を身に着けているかなどを調べるテストだ。また、両親から発育や健康状態についての聞き取り調査も行なった。その結果、次のことがわかった。
女の子より男の子の運動能力がアップ
(1)知能検査と全体的な発育状態については、両グループの間に違いはみられなかった。
(2)しかし、発達性強調運動障害検査と両親への聞き取り調査結果を分析すると、3分後に切った子どもの方が、細かい運動能力や社会性・協調性の点で、わずかだが優れていた。
(3)その運動能力や社会性・協調性の差は、男の子の方が明らかに大きく、女の子の方は小さかった。これは、男の子は女の子に比べると、生まれた時に鉄分が足りないことが多いため、へその緒を遅く切った効果が表れやすいとみられる。
この結果について、アンダーソン博士は「へその緒を切る前に3分間待つことで、母体の血液が100ミリリットルほど新生児に流れ続けます。これは大人の2リットル分もの血液量に相当するものです。世界中の多くの地域で、へその緒は出生後すぐに切ってしまいますが、臍帯血に含まれている鉄分を受け取り損ねてしまうため、新生児は貧血になりやすくなります。特に貧しい国々では、子どもの成長に深刻な影響を与えます」と語っている。
実は、同様な研究は2014年に英国でも行なわれた。3911人の新生児のへその緒を出産後3分たってからカットした。その後、半年間経過を観察すると、ヘモグロビン値が赤ちゃんの平均より高くなり、鉄分欠乏症になる割合が減ったという。この研究を受け、2015年に英国国立医療技術評価機構(NICE)は、出産後1~3分間はへその緒を切らないことを推奨する新たなガイドラインの検討に入ったという。
でも、日本人の赤ちゃんは「3分間待って」に要注意
「うわあ~、私、男の子の予定なの! さっそくお医者さんに『3分間待って!』と頼んでおかなくちゃ!」と思ったプレママのあなた。日本人の場合は、ちょっと難しい問題があるようだ。ウプサラ大学の研究に関連し、ある産婦人科専門医のウェブサイトには次のような説明があった。
「そもそも、へその緒はなぜすぐに切るのかご存じですか。それは『黄疸(おうだん)』が関係しているのです。胎児の時に使っていた赤血球が不要になり、それが壊れる過程で『ビルルビン』という物質に変わります。これが血液中に増えると、顔や目が黄色くなる。へその緒をすぐに切らないと、赤ちゃんに『ビルルビン』を含む血液が多く流れ、黄疸になりやすくなるのです」
そして、黄疸は白人には少なく、アジア人に多い。アジア人の中でも特に日本人は多いそうだ。黄疸の中でも特に恐ろしいのが「核黄疸」で、脳性まひや難聴の後遺症を起こす危険性もあるという。
「だから、『3分以上待ってへその緒を切ってほしい』という要望を出す場合は、メリットとデメリットをよく考え、担当の産科医や助産師としっかり相談してください」と産科医のサイトではアドバイスしている。