動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病や肝臓病、胃がんの予防など、ブロッコリーには多くの健康効果が期待されているが、うつ病の予防にも有効である可能性が高まっている。
千葉大学の橋本謙二教授と東北大学の山本雅之教授らの研究グループが動物実験で明らかにし、英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」(電子版)の2016年7月29日号に発表した。
最強の抗酸化物質「スルフォラファン」が万病を防ぐ
研究グループが着目したのは、ブロッコリーに豊富に含まれているフィトケミカル(植物由来成分)の「スルフォラファン」だ。スルフォラファンは、約200種以上あるフィトケミカルの中でも最も強い抗酸化力があるといわれる。人間の老化や病気は体の細胞が酸化し傷つくことによって起こるので、抗酸化力が強いほど病気を予防する働きが大きいわけだ。
実験では、大きさの違う2種類のマウスを同じケージに入れ、毎日10分間、大きいマウスに小さなマウスをいじめさせた。残りの時間も2匹を隣り合わせのケージに入れ、絶えず小さいマウスに恐怖とプレッシャーを与え続けた。こうした生活を10日間繰り返すと、小さいマウスは人間と同様に「社会的敗北ストレス」を感じ、うつ症状を引き起こすようになる。
このあと、大きいマウスと小さいマウスに普通の水とショ糖の入った甘い水を飲ませると、大きいマウスは70~80%の割合で甘い水を飲んだが、小さいマウスは50%しか飲まなかった。うつ病になると、体内の糖分のバランスを保つ機能が正常に働かなくなり、糖分が必要なのにとらなくなり、脳に糖分の栄養がいきわたらず、うつ症状が悪化したりする。甘い水をあまり飲まないことで、小さいマウスがうつ病になっていることが確認された。
大きいマウスにいじめられた小さいマウスが元気に
しかし、小さいマウスに事前にスルフォラファンを注射すると、大きいマウスにいじめられても、70%近い割合で甘い水を飲んだ。このことから、スルフォラファンにうつ病の発症を抑える働きがあると考えられるという。また、マウスを生まれた直後からスルフォラファンを食べさせて育て、同様にストレスを与える実験を行ってもうつ病の発症はみられなかった。
今回の研究では、うつ病になったマウスの脳が炎症を起こしていることが確認された。うつ病の発症メカニズムははっきりしていないが、近年、ストレスや腸内細菌が原因で、脳が炎症を起こして発症するという説が出ている。
研究グループの橋本謙二教授は「今回、『うつ病の炎症仮説』を支持する結果が出ました。スルフォラファンの強い抗酸化作用が脳の炎症を抑え、うつ病の予防に役立っていると考えられます。スルフォラファンはブロッコリーをはじめ、緑黄色野菜に多く含まれる安全な化合物です。身近にある食べ物をとることがうつ病の予防に役立つのです」とコメントしている。
ブロッコリー本体より新芽のスプラウトに効果に
スルフォラファンは、以前から血糖値を下げる働きがあるため、糖尿病や心臓病予防に効果があるとされてきたが、最近、次のような健康効果の研究が相次いで発表されている(カッコ内は研究機関)。
(1)脂肪肝と肝臓がんの予防効果(米イリノイ大学)
(2)自閉症の行動やコミュニケーション力の改善効果(米ハーバード大学)
(3)花粉症の改善効果(東京理科大学)
(4)ピロリ菌を抑え胃がん予防効果(筑波大学・東京理科大学)
(5)いわゆる顔のがん「頭頚部がん」の予防効果(米ピッツバーグ大学)
スルフォラファンは、ブロッコリー本体より、新芽であるカイワレ大根に似た形のブロッコリースプラウトに「親」より20倍多く含まれている。もちろん、「親」のブロッコリーにも「葉酸」「ビタミンC」など体にいいものがギッシリ詰まっているので、合わせて食べるのがいいようだ。