東京都心部(23区と武蔵野市、三鷹市)のタクシー初乗り運賃が、2017年の年明けにも値下げされ、全国最安値になりそうだ。東京都心の運賃は現行の2キロまで730円から、1.059キロまで410円に引き下げる見通し。東京都心では短距離のタクシー利用が多く、「ちょい乗り」客を期待する大手タクシー会社が運賃引き下げを国土交通省に申請した。これを受け、実際に410円のタクシーを走らせる全国初の実証実験が16年8月5日から始まり、9月15日まで都内4か所のタクシー乗り場で実施されている。利用者の反応は上々のようだ。
これまで沖縄県の離島では初乗り410~430円の地域があるほか、名古屋市内では1.264キロまで480~500円のケースがあるが、東京で410円が実現すれば都市部の初乗りでは全国最安値ということになる。
「ちょい乗り」のニーズはどこまであるのか
国交省の実証実験には東京都内のタクシー会社23社が参加。新宿駅東口、浅草駅前など4か所のタクシー乗り場で、初乗り410円を表示したタクシー40台を走らせ、「ちょい乗り」のニーズがどこまであるのか確認する。
今回の実証実験は今(16)年4月、最大手の日本交通が国交省に運賃引き下げを申請したのがきっかけだ。東京都心部のタクシー運賃は、国交相が指定した運賃幅(現行700~730円)の範囲内でタクシー会社が自社の運賃を選ぶことができる。ほとんどの会社が運賃幅の上限を選択するため、東京都心の初乗りは事実上、730円で統一されている。
タクシー会社が運賃を変更したい場合には、同じ地域内のタクシーの総車両台数の7割を越える会社が運賃幅の変更を申請すれば、国交省が審査し、改定することになっている。今回は車両数の8割を超えるタクシー会社が初乗り運賃の引き下げを申請したため、国交省が7月に審査を開始。運賃の引き下げが、ほぼ確実となった。
「流し」需要が多い東京都心だからこそ
タクシーの初乗り運賃の引き下げが実現すると、2キロ未満の「ちょい乗り」であれば、現行運賃よりも安くなる。しかし、初乗り410円の後は237メートルごとに80円の加算(現行は280メートルで90円)となるため、2キロで現行と同じ730円になる。ただし、2キロを超える利用では現行運賃よりも割高となるケースもあるので注意が必要だ。
国交省によると、東京都心のタクシー利用は平均4キロとされる。タクシー業界は「初乗り運賃の引き下げで、お年寄りや訪日外国人観光客らの『ちょい乗り』需要を取り込みたい」と意気込むが、実際は「初乗り運転の引き下げで、利用者のタクシー離れを少しでも食い止めたい」というのが本音のようだ。全国のタクシー・ハイヤーは都市部を中心に供給過剰で過当競争が続き、過去20年間で台数は約1割、輸送実績は約4割減少するなど長期低迷が続いているからだ。
しかし、初乗り運賃の引き下げができるのは、「全国でも『流し』のタクシー需要が多い東京都心だから」との見方で関係者はほぼ一致している。全国の主要都市の初乗り運賃は名古屋市を除けば600円台が大半を占めており、東京都心の410円に追随できる地域は今のところ見当たらないのが現実だ。