2016年7月末に生産を終了した「VHS」方式の家庭用ビデオデッキの「復活」を望む声がやまない。
VHS方式のビデオデッキは1976年に日本ビクター(現JVCケンウッド)が発売。ソニーのベータマックス方式(1975年発売)と約10年間にわたる覇権争いはあまりに有名で、それに勝ったことで市場はVHS方式一色に染まった。
「続けていきたいのですが、部品が......」
そんなVHSビデオは、2000年代に入ると急速に売れなくなっていった。家庭用ビデオの記録媒体が磁気テープから光ディスクなどに移行。DVDレコーダーやハードディスクレコーダー(HDD)、ブルーレイディスクの登場といった「デジタル時代」に対応できなくなったことが要因。国内では2011年に、パナソニックなどの大手家電メーカーが生産を終了しており、船井電機だけが生産を続けていた。
2016年7月末にVHSビデオの生産を終了した船井電機は、CVCビデオの開発で培った技術力をベースに、1983年からVHSビデオを展開。ピーク時(2000年)には国内外で年間1500万台超を販売したが、それが2015年には75万台と、20分の1の規模に激減していた。
生産終了の理由を、同社は「生産を続けたいが、部品の調達が難しく断念せざるを得なかった」と説明。「VHSには特有の部品があるのですが、VHSを製造しているところが当社だけなので、部品メーカーが供給できなくなりました。昨年、最後にまとめてつくってもらい、その部品を当社ですべて引き取って製造していました」と続ける。
じつはVHSビデオは同社の売上高のなお数%を占めており、「まだまだ需要が見込める商品」だった。競合する大手家電メーカーがすでに生産を終了しているので、「市場の成長性は低いが、市場シェアは高い」製品だったためだ。
とはいえ、部品が調達できなくなれば、製品がつくれなくなるばかりか、数少ない部品を確保するために調達コストが上がる。つまり、収益が見込めなくなったということらしい。VHS市場の魅力を認識していた同社にとって、「撤退」が苦渋の決断だったことがうかがえる。