最近の円高や株安の影響で、これまで海外の投資家や富裕層が購入していた首都圏マンション、なかでも「億ション」の動きが鈍ってきた。
2016年7月の首都圏マンションの販売価格は2か月連続で値下がり、銀行の住宅ローン金利も過去最低水準で推移しており、「買い求めやすい」環境にないわけではないにもかかわらず、だ。契約率は好不調の分かれ目とされる70%を下回っている。
変調は東京23区が最も大きい
首都圏マンションの販売が変調をきたしている。不動産経済研究所が2016年8月16日に発表した首都圏マンションの市場動向によると、7月の発売戸数は3317戸で、前年同月比30.7%減と大幅に落ち込んだ。発売戸数は8か月連続で前年実績を下回り、実際に売れたマンションの販売戸数の割合を示す契約率は63.3%と、好不調の分かれ目とされる70%を2か月連続で割り込んだ。
売れ行きが鈍化している要因の一つは、販売価格の高騰にある。同研究所の松田忠司主任研究員は、「高値が続くなかで、エンドユーザーの購買意欲が鈍くなっています」と話す。
首都圏マンションの平均価格は、アベノミクスの効果で、2013年に3年ぶりに上昇して4929万円となった。それが15年にはバブル期の1991年(5900万円)以来の高値を付ける5518万円にまで上昇。15年は「億ション」の発売戸数が1688戸と2年ぶりに増えていたことも、価格を押し上げた。この勢いは16年に入ってからも止まらず、5月には5692万円を付けたのだから、「買おう」と考えていた人でも躊躇してもおかしくない状況となっていたとみられる。
首都圏マンション市場の変調は、東京都心ほど大きいようだ。月間契約率をみると、神奈川県(75.0%)や埼玉県(62.0%)、千葉県(60%)で60%の月間契約率を維持したものの、東京都23区内のそれは56.5%、都下でも55.6%と60%を割っている。
ここ数年、マンション市場は「都心回帰」が鮮明だったが、最近は都心部を中心に東京都内は建設用地の確保が難しくなっているため、いわゆる「億ション」を含めた高級マンションが建設しづらくなっている。
加えて、建設用地が都心から周辺エリアに移りはじめたことで、エンドユーザーが様子見の姿勢を強めたことがある。松田氏は、「都心周辺のマンションは実需の部分になりますから、エンドユーザーのマンション選びは、より慎重になります。そのことが影響しています」とみている。
販売戸数が伸びない背景には、価格高騰などの、こうしたエンドユーザーの需要の鈍化で、マンション業者の販売見送りが広がったこともある。
3カ月連続で在庫増、このまま積み上がると...
一方、高止まりが続いていた首都圏マンションの平均販売価格は、2016年7月に、前年同月と比べて1戸あたり約297万円(5%)下落の5656万円となった。販売価格はこの4月まで11か月連続で上昇していたが、5月から下落に転じている。
ただ、銀行の住宅ローンが超低金利にあるとはいえ、エンドユーザーにとっては「買おう」という意欲が沸くにはもう一段値下がりしてほしい水準かもしれない。
これまで、首都圏のマンション市場をけん引してきたのは、中国をはじめとした海外投資家だ。ところが、そんな海外投資家も「様子見」をはじめていて、そのことを変調の要因と見る向きもある。
背景には円高があるが、最近は投資のリターンを得ようと物件を売り出すケースも出てきたとの指摘もある。物件価格の上昇への期待感が薄れていて、投資的な魅力が乏しくなっているようだ。
同じように、国内富裕層の購入意欲も鈍っている。これまでは「タワーマンションが相続税の評価額を低く抑えられる」ともてはやされてきたが、こうした節税への監視が強化されており、こちらも様子見を決め込んでいるとされる。
そうしたなか、前出の不動産経済研究所の松田忠司氏は、2016年7月の在庫数が前月と比べて368戸も積み上がったことに注目している。在庫数の増加はこれで3か月連続。「在庫の増加はよくないことではあります。この状況が続くと在庫過剰の危ない状況になりかねません」と指摘する。
在庫が増え続ければ、新規物件の発売スケジュールが遅れるだけでなく、販売価格が値崩れする恐れも出てくる。すでに16年は、前年のように「億ション」が発売される予定もないため、潮目が変わりつつあるといえないこともない。
松田氏は「都心では大型の目玉物件が出さえすれば、70%の契約率を確保できると思います。ただ、それがないと...」と、言葉を濁す。このまま、マンション販売が変調をきたしてしまうのかどうかは、「秋商戦の状況次第」とみている。