「生理が来ちゃって、良い泳ぎができなかった」。リオデジャネイロ五輪競泳で2016年8月13日、中国代表の傅園慧(フ・エンケイ)選手は4位に終わった女子4×100メートルメドレーリレーの試合後、インタビューに対して率直に語った。
生理痛に悩まされるのは、一般女性も世界のトップアスリートも同じだが、それを公然と競技の場で発言するのは極めて異例。「タブーを破った」とメディアやインターネット上で称賛の声が集まっている。
「生理なのに泳げたなんて凄い!」
傅選手は天真爛漫なキャラクターで中国国内に多くのファンを持つ。中国版ツイッター「ウェイボー」のフォロワー数は約620万人に及ぶ。水泳の実力も折り紙つきで、8月8日の女子100メートル背泳ぎでは銅メダルを獲得。表情豊かに喜びを爆発させ、インタビュアーに「落ち着いて」とたしなめられたほどだ。
「生理が来ちゃった」発言は、多くの海外メディアが伝えた。AFP通信は8月17日、「私が生理中の時は歩けなくなるのに、泳げたなんて凄い!」「この子はどんなことも話す勇気がある」という中国のソーシャルメディアの声を拾い、「称賛の声を集めている」と報じた。
ニューヨーク・タイムズ紙は8月16日、「型破りな傅選手は、女性アスリートのタブーを打ち破った」と紹介した。BBCニュースも同日、「スポーツ界のタブーを破った」と伝えた。デリケートな問題であるうえ、トップレベルのコーチの多くは男性であるため、生理中でも言い出せない女性アスリートが多く、「タブー視」されてきたからだ。
ロンドン五輪日本代表の6割以上が「競技に影響」
生理は、子宮内膜の出血、下腹部痛、腰痛、吐き気、貧血といった不快な症状を引き起こす。多くの女性アスリートを悩ませているため、国立スポーツ科学センターは2016年5月、『月経対策ハンドブック』を制作、ウェブサイト上で公表した。それによると、2012年ロンドン五輪出場アスリート132人のうち、36.7%の29人が「月経による体調不良」で、また27.8%の22人が「月経痛」で、「競技に影響が及んだ」と答えている。合わせて6割以上が「影響が出た」と答えた。
ハンドブックでは生理への対策として、生理痛が起きた時の鎮痛剤や、生理をずらすための低用量ピルの使用について詳しく解説。ドーピング禁止物質を含まないというが、使用に際して必ず確認するよう注意書きも付けている。
一方、生理がこない「無月経」になるアスリートも多い。無月経により、骨の形成にもかかわっている女性ホルモンが不足すると、疲労骨折しやすくなる。ハンドブックではアスリートが無月経になる理由を「運動による消費エネルギーに見合った摂取エネルギーが摂れていない」からだとして、食事の改善が治療の大原則だとしている。
フィギュア鈴木明子さん「男性もつらさを分かって」
フィギュアスケーターの鈴木明子さんも選手時代、無月経に悩んだ。2015年7月にブログで、8月のシーズン前合宿から、シーズンが終わる3月まで毎年生理がこず、骨密度が低下していたと明かした。原因は「精神的なものも大きかった」と語っている。
鈴木さんは「これまでは(月経について)声を上げる人があまりいなかったかもしれないが、私は隠すことでもないと思っている。事実を伝えていかないと」「特に男性コーチには、月経のつらさを理解するのは難しいし、好不調の波が厄介に映るかもしれない。でも、そこを分かってほしい」と、周知していく重要性を、読売新聞の健康情報サイト「ヨミドクター」の2015年10月28日付記事で語った。
傅選手の「生理が来ちゃった」発言は、ツイッター上では日本人ユーザーからも「勇気に拍手」「実はいま生理中でツラい、とテレビのインタビューでいきなり発言。世界を変えられるのはこういう人」「彼女のコメントを批判する人って女性の身体について無知か人の痛みを知らない人だよな」といった反響が出た。これを機に、女性アスリートの生理への理解が進むかもしれない。