女性の多くが悩む不妊症。その代表的な治療の1つに体外受精があるが、排卵誘発剤などを用いて卵巣を刺激することが乳がんリスクを高めるのではないかと心配されてきた。これまで体外受精を受けた女性を長期間追跡した研究がなく、はっきりしなかった。
しかし、オランダがん研究所のグループが、「体外受精を受けても乳がんリスクには影響しない」という結論を初めてまとめ、米医師会誌「JAMA」(電子版)の2016年7月19日号に発表した。子宝に恵まれない女性には朗報だ。
「私はがんが怖い。でも運に賭けて体外受精を受けます」
不妊治療を受けている女性たちのウェブサイトをみると、乳がんを心配する声がたくさん載っている。
「先ほど投稿を読んでいたら、ホルモン治療には乳がんのリスクが高いという投稿がありました。そんなリスクがあるなんて聞いていませんでした。本当に驚いています。だれかご存知の方、教えてください!」
「私もがんが怖いです。先生に聞くと、『排卵誘発剤に関しては、まだ結論づいていない』と言っていましたよ」
「『大丈夫!』『大丈夫!』と先生たちはみんな言いますよね。『何を根拠に言うんですか?』と聞くと、誰も答えてくれない。ピルだってタバコだって、がんのリスクはムッチャ高いです。でも、がんにならない人はならない。運だと思いますよ。私は運に賭けて体外受精を受けます」
排卵剤は乳がんの元凶・女性ホルモンを分泌するが...
体外受精による不妊治療では、ホルモン剤の飲み薬や注射で卵巣を刺激して排卵を誘発し卵子を取り出すことが多い。ただ、卵巣を刺激すると女性ホルモンのエストロゲンやプロゲストロゲンが分泌されるため、長期的に乳がんの発症リスクが高まるという指摘が以前からあった。というのは、乳がんの発症には女性ホルモンが深く関わっていることがわかっているからだ。
このため、多くの国で体外受精と乳がん発症リスクの関連の研究が行なわれてきた。しかし、体外受精が普及し始めたのが1980年代後半からで、当時、体外受精を受けた人の多くが、現在、まだ乳がん発症年代(50代半ば以降)に達していないため、長期間追跡する調査ができていなかった。
そこで、研究グループは、早くから体外受精を行なってきたオランダの不妊治療専門クリニック12施設の協力を得て、1983~1995年に体外受精を受けた女性1万9158人(年齢中央値53.8歳)と、1980~1995年の間に体外受精以外の不妊治療を受けた女性5950人(年齢中央値55.3歳)のデータを分析した。
そして、55歳時点までの乳がんの発症率を比較すると、体外受精を受けた人が3.0%、受けていない人が2.9%で、統計学上意味のある差ではなかった。つまり、体外受精を受けても乳がんの発症には影響がないというわけだ。また、不妊治療に使われる薬の種類によるリスク差も認められなかったという。