日本銀行がETF(上場投資信託)の買い入れ枠を、これまでの2倍にあたる年間6兆円に拡大することを受けて、上場企業の経営監視機能の低下を懸念する声が高まりつつある。
日銀のみならず、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も株式運用の拡大で、上場企業の株主の上位に顔をのぞかせるケースが増えているようなのだ。
日銀がミツミ電機やファーストリテイリングの「上位株主」との試算
アベノミクスの失速により、これまでも追加の金融緩和がたびたび期待されたなか、日本銀行は7月29日、ようやく重い腰をあげた。ETFの買い入れ枠を、従来の3.3兆円からほぼ倍増の年間6兆円に拡大する。
日銀はETFの大量購入で、投資家に株式を買いやすい投資環境をつくることで株価上昇につなげる、株価の下支え効果を見込んでいる。
東京株式市場の日経平均株価は、英国が欧州連合(EU)離脱を決めた2016年6月24日に年初来安値(1万4952円02銭)を付けて以降、緩やかに上昇しているものの、1万7000円台に突入できずにいる。8月12日も終値で1万6919円92銭と、1万7000円台にわずかに及ばなかった。いま一つ、勢いに欠けている。
そうしたなか、ニッセイ基礎研究所金融研究部のチーフ株式ストラテジスト、井出真吾氏が「日銀ETF大量購入の問題点」を8月8日に発表。それによると、日銀のETF大量購入は株価の下支え効果が期待される一方で、「株価維持によって、企業の経営監視機能が損なわれる懸念がある」と、指摘している。
ETFの買い取り効果は、日銀がETFを購入することでETFの市場価格が上昇すると、ETFを構成する銘柄の現物株とのあいだに価格差が生じる。それにより割安な現物株に買い注文が入って、その企業の株価が上昇することで現れる。たとえば、東証1部を代表する上場225銘柄を対象とする、日経225連動型ETFを日銀が購入すると、おのずと225銘柄の株価が上昇しやすくなるというわけだ。
井出氏の試算によると、「日銀の間接的な株式保有割合が大きい企業」(5%以上の企業)には、ミツミ電機(7月29日時点の時価総額に対する日銀の保有割合は9.0%→1年後の推定保有割合16.6%)やアドバンテスト(7.8%→14.4%)、ファーストリテイリング(7.1%→13.0%)、太陽誘電(6.7%→12.4%)、TDK(6.5%→12.0%)などが名を連ねるほか、東邦亜鉛やトレンドマイクロ、コムシスホールディングス、コナミホールディングス、日産化学工業、日本曹達の各社の保有割合が1年後には1割に達すると予測。「これら企業の株価は、今後も日銀のETF大量購入によって下支えもしくは引き上げられることが期待される」とする半面、「企業経営への弊害も想定される」と指摘する。