出光興産と昭和シェル石油の経営統合をめぐり、出光創業家と経営陣の対立が泥沼化している。創業家の代理人弁護士は2016年8月3日、記者会見を開き、創業家が市場で昭和シェル株40万株を取得したことを明らかにした。出光による昭和シェル株の買い取りを阻む狙いがあり、6月に表面化した騒動の収束は一段と困難になりつつある。
「合併計画を取り下げてほしい」。創業家の代理人弁護士である浜田卓二郎氏は3日の会見で改めて強調した。浜田氏によれば、創業者の長男で5代目社長も務めた出光昭介名誉会長ら創業家は、約4億円もの資金を投じて昭和シェル株40万株を取得。これは昭和シェルの発行済み株式全体のわずか0.1%程度にすぎないが、出光・昭和シェルの統合計画を頓挫させる可能性を秘めている。
経営統合めぐるゴタゴタ
なぜ、ごく僅かな株式取得が統合計画を揺るがすのか。出光は経営統合の前段として、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル(RDS)から相対取引で昭和シェル株33.2%を取得する方針だった。金融商品取引法では、発行済み株式の3分の1(33.3%)を超える株式を取得する際には、すべての株主に公平に売却機会を与えるため、不特定多数の株主からの買い取り要請に応じる「株式公開買付(TOB)」を行うことを定めている。出光はTOBを行わずに済む上限ギリギリの昭和シェル株を買おうとしたわけだ。
これに対し、浜田氏は、出光の大株主である創業家は出光と密接な関係がある「特別関係者」にあたると主張する。そうであれば、出光の持ち株比率には創業家の持ち株も合算する必要があり、出光が計画通りに昭和シェル株を取得すれば、持ち株比率は33.3%を超えるという。つまり、創業家が0.1%の昭和シェル株を取得したことで、出光は従来計画していたRDSとの相対取引ではなく、TOBを行う義務が生じる――というのが創業家側の言い分だ。
創業家の持ち株を合算すべきかどうかは市場でも見解が分かれるものの、創業家は「特別関係者」とみなさざるを得ない、したがって合算は避けられないとの見方が多い。出光創業家と経営陣のゴタゴタは当面、膠着状態が続くとみられていたが、出光による昭和シェル株の買い取りが秋にも予定される中、創業家が統合計画の阻止に向けて「実力行使」に出たかたちだ。
業界再編は不可避との見方が大勢
浜田氏の記者会見を受け、出光の月岡隆社長はすぐに昭和シェルの亀岡剛社長のもとを訪れ、予定通りの統合を目指す方針を確認したもようだ。だが、当初の計画を変更してTOBを行えば、RDS以外の多くの株主からも株式売却希望が寄せられ、取得費用が膨らむのは必至。さらに、「対等の精神」での統合を求めている昭和シェルも、TOBには「一方的に買収される」かたちになることから、難色を示すとみられる。出光経営陣を窮地に追い込む創業家の「奇策」について、出光幹部は「まったく想定していなかった」と青ざめるしかなかった。
こじれにこじれた事態の打開は容易ではなく、市場では「創業家を説得する以外に手がない」(アナリスト)との声がもれる。出光経営陣は引き続き、創業家に協議のテーブルに着くよう呼びかけているが、創業家側は経営陣が昭和シェル株の取得方針を撤回しない限り、協議には応じないと態度を硬化させているという。
ただ、創業家側の主張通りに経営陣が昭和シェルとの統合を断念し、単独路線を採ったとしても、将来安泰とはいえない。国内の石油需要が縮小し続ける中、石油元売り業界では供給過剰による安値競争が激化している。業界1位のJXホールディングスと同3位の東燃ゼネラル石油も経営統合計画を進めるなど、業界再編は不可避との見方が大勢で、経済産業省もこの流れを後押ししてきた。出光の生き残りにとって何がベストなのか、最も重要な議論は置き去りにされたまま、創業家と経営陣の消耗戦が続いているのが現実だ。