交通事故などで脊髄損傷になった人は半年以上たつと、体の麻痺の症状が固定するため、将来、神経幹細胞の移植が可能になっても機能回復が難しいと考えられている。そんな慢性期の患者に朗報だ。
慶応大学の研究グループは、マウスの実験で細胞の移植と歩行訓練を併用すると、運動機能を回復する可能性があることを突きとめ、英科学誌「サイエンス・リポーツ」(電子版)の2016年8月3日号に発表した。
マウスの実験ではしっかり歩き、神経も回復
わが国では毎年約5000人が交通事故などで脊髄損傷になり、半年以上を経過した慢性期の患者は延べ約20万人に達するといわれる。損傷した脊髄を治療する方法は確立されていない。iPS細胞(人工多能性幹細胞)などを使った神経細胞の移植研究が進められているが、半年以内の急性期患者には効果が期待できるものの、慢性期患者には難しいとされている。
研究グループは、人間でいえば慢性期にあたる、脊髄損傷後6週間以上経過したマウスにiPS細胞を使い、新たに神経をつくる幹細胞を移植した。そして、体をぶらさげてトレッドミルの上をゆっくり歩くリハビリ訓練を8週間続けた。すると、治療前は足を引きずっていたマウスがしっかり歩くようになった。また、神経組織を調べると、幹細胞の割合が増加し、歩行のための中枢神経回路が強化されていた。
研究グループの中村雅也教授は「人間の慢性期の患者でも、iPS細胞の移植とリハビリ訓練を併用すれば機能回復が期待できることがわかりました。精髄損傷の再生医療に新しい扉を開くものです」とコメントしている。