ソニーのパソコン事業を切り出して独立したパソコンメーカー「VAIO」(長野県安曇野市)は2016年7月26日、新たな経営方針を発表した。一時は東芝、富士通とのパソコン部門との統合も検討したが、単独での生き残りに向け、利益率の高い高級タイプに徹し、南米など海外向けの拡大も図る。既に黒字転換を果たしているが、パソコン主体の電機企業としての再出発が軌道に乗るか、注目されている。
メーカーとしての「VAIO」は、ソニーがリストラを進め不採算部門を整理するなかで「不要」として売却され、2014年に独立した会社だ。テレビ部門のように赤字体質ながら「家電の王様」だとして、ソニーグループ内に残った事業と大きく異なる扱いとなった。VAIOは投資ファンドの「日本産業パートナーズ(JIP)」(東京都千代田区)が、株式の約9割を持つ。
「日の丸パソコン」構想は破談
独立はしたもののはっきりした展望が開けないなか、市場が縮小する環境でも競争力を高めて生き残る策として、東芝、富士通のパソコン部門と統合して新会社を作る案が検討された。特に不正会計問題などによって抜本的な事業の見直しを進めている東芝は、統合による「日の丸パソコン」会社誕生に積極的だったとされる。「規模の利益」を生かして部品調達コストを下げて収益力を高める狙いがあった。昨15年秋から具体的の枠組みの本格的な検討が始まり、持ち株会社の傘下に3社のパソコン事業を置く案などが議論されていた。
しかし、「日の丸パソコン」は今や「弱者連合」でもあるだけに、一緒になったからといってバラ色の未来が開けているわけではない。国外への技術流出を防がなければならないほどの最先端技術を保持しているわけでもなく、「国策会社」として国が支援するたぐいの話でもなかった。既にNECは、パソコン事業について2011年に中国レノボグループと事業統合している。こうした中で、生産拠点の統廃合などを巡って東芝、富士通、VAIOの3社の意見に折り合いがつかなかった模様で、話し合いの期限としていた今年3月末までに合意を得られず、破談となった。
メーカーとしての「VAIO」は7月1日で設立3年目に入ったところだ。非上場会社なので詳細な業績は公表していないが、2015年5月期に約20億円の営業赤字だったが、2016年5月期に営業黒字に転じた。
南米3か国でライセンスを秋以降に供与
ソニー時代のパソコン事業で、パソコンの年間販売台数のピークは2011年3月期の約870万台。これがソニー時代のリストラによって生産規模を縮小。調査会社のIDCジャパンによると、会社「VAIO」による2015年の国内出荷は約19万台で海外向けはほとんどない。つまり、ソニー時代のピークに比べて販売台数が約40分の1の水準に落ち込んでいる。国内シェアも2%弱と首位のNECレノボ連合(約26%)ははるか遠い。
こうした中でVAIOは、消費者の手にとられやすい廉価な数万円のタイプを他社と同じようにコストを削って生産販売する「耐久戦」に参加しても生き残れないと判断。利益率の高い10万円以上する高性能な機種に特化し、攻勢をかける。少ない社員数を逆手にとって製品の開発、生産から販売まで1人の責任者が担当する体制をとることで、製品ごとにコスト意識を持つことを徹底させた。海外についてはアルゼンチン、チリ、ウルグアイの南米3か国でライセンスを今年9月以降に供与する。昨15年9月に始めたブラジルでのライセンス事業が好調なため、周辺国に拡大するものだ。現地メーカーがVAIOブランドのパソコンを製造・販売し、VAIOがライセンス料を得るビジネスで、VAIOブランドというソニー時代からの遺産を生かす。
VAIOは企業再生の経験もある大手商社、旧ニチメン出身の大田義実社長が約240人の社員を率いる。少数精鋭で再び存在感を高められるか。パソコン自体の需要は減少が続いているだけに、新事業育成を含め、大田社長の手腕が問われる局面が続きそうだ。