今(2016)年の夏は、円高傾向や原油安に伴う旅行代金の割安感などから、海外旅行の人気が高いという。ただ、世界各地で多数の人が犠牲になる残忍なテロ事件が相次いでおり、心配を募らせている人も多いようだ。テロは個人の力では防ぎようもないが、専門家は「多少でもリスクを減らせる方法はある」という。
バングラデシュの首都ダッカで7月初旬に起きたテロ事件では、日本人7人を含む22人もの命が奪われた。同月中旬にはフランス南部にある同国最大のリゾート地、ニースでもテロ事件が発生、84人が犠牲になった。
なるべく人が少ない午前中を選ぶ
テロリストが事件を起こす大きな目的の一つは、世界の注目を集めることだ。ダッカでは外国人が標的になり、ニースでは外国からの観光客を含む多くの人が集まる場所が狙われたのは明らかだ。各国の人が大勢いる場で一度事件を起こせば、特定の国だけでなく、世界中に幅広く報道され、テロリストたちの宣伝にもなる。
このため、テロ対策の専門家の多くは「旅行者は、場所と時間に細心の注意を払うべきだ」と強調する。各国の多数の人が訪ねる世界的に著名な美術館や博物館、観光地などに行く際は、なるべく人が少ない午前中を選ぶなど、注意すればリスクは減らせるわけだ。
また、「テロリストは事件の写真が派手に世界に報道されることを狙って場所を選ぶ傾向がある」と、危機管理の専門家は指摘する。世界各地の人が集まる華やかなレストランが1階にある場合、狙われる危険度は高まる。ホテルの1階のロビーが危ないとされるのも同じ理由で、特に1階にある華やかな場所に長時間とどまることは避けた方がよいということになる。
「人を疑ってはいけない」は「世界の非常識」
さらに、「人を疑うな、という意識は完全に捨てるべきだ」と多くの専門家は特に指摘する。日本人の大半は、子供のころから「人を疑ってはいけない」と教育されるが、これは「世界の非常識と考えなければいけない」という。ある専門家は「このレストランは安全です、と説明を受けたとしても、私なら『なぜそう言えるのか』と尋ねる。誰がどう警備し、いざという時はどんな方法でどこから逃げ出せるかを確認する」と話す。
ただ、それでもまだ不十分なのだという。従業員がテロリストの仲間かもしれないし、「従業員がテロリストに家族を人質にされていて、テロリストの手先にされていることだって、実際にはたくさん起きている」。
情報収集にも手を抜かないことだ。外務省の「海外安全ホームページ」を確認するのは初歩中の初歩。旅行会社などにも可能な限りの情報を求め、自分なりに見極めをつける必要がある。
「テロは世界中のどこでも起きる。そう認識したうえで、自分の身を守るのは自分だけだという意識を強く持ち、責任をもって行動を」と専門家は呼び掛ける。