健康のために毎朝、自分のおしっこをコップ1杯「ぐいっ」と飲んで行ってきます――。そんなのムリに決まっていると思うだろが、実際に「飲尿療法」という民間療法が存在するのだ。歴史は結構古く、ブームが起きたこともある。
医学的なメカニズムの解明は十分に進んでいない。一方で自ら実践し、健康効果が高いと強く勧める医師もおり、がんをはじめ多くの難病を治せると主張する。
ロックで1杯「何の抵抗も無く飲めました」
飲尿療法が日本で知られるようになったのは、中尾良一医師の著書『奇跡の起こる尿療法』(1990年発行)と言われている。新潟市で整体療院を営む高橋十九郎氏はブログで、「尿療法は理論的に全てが解明されたわけでは有りません」としながらも、「素晴らしい回復を見た多くの報告がなされています。特に顕著なものはがんや肝硬変、リウマチなど難病とされるものに顕著な変化があるようです」とつづっている。
「好奇心が強い」という高橋氏は、飲尿療法を自ら実践。「最初の一杯目はまるで駄目でした。匂うし生暖かさは耐えられず僅かに口に付けただけでした」というスタートだったが、翌日「ロックにしてパックのコーヒーを僅かに入れ」て飲んだところ、「比較的抵抗無くいけました」という。
「最初の僅かな勇気だけで二日目からは何の抵抗も無く飲めました」
と高橋氏。その後も2か月ほど飲み続けると、周囲から「顔色が良くなった!」と言われたり、疲労を感じなくなったりした、と書いている。
高橋氏によれば、尿は栄養を運んだ血液が腎臓で濾過(ろか)されたものであり、成分は血液と同じで無菌状態。飲尿に対する抵抗感を乗り越えるには、
「尿は血液のろ過されたものと云う理論面から克服し、生暖かさはロックでサポートし、匂いはプロポリス(液体又は水溶性錠剤)で消える」
とコツを伝えている。
「科学的・統計学的な有効性は立証されていない」
飲尿療法の発祥は3000年前の古代中国やインドに遡るという説もあるが、ここ1世紀ほどの間で世界中に知られるきっかけとなったのは、自然療法論者ジョン・W・アームストロング氏の著書『生命の水―奇跡の尿療法』(原題:Water Of Life/1944年発行)と言われる。
大阪府で消化器内科医院を開業している上田昌司医師は、2015年6月25日に更新した自身のブログで同著を紹介。記事によると、アームストロング氏の飲尿療法の基本は「絶食と飲尿と尿の湿布と擦り込み」である。アームストロング氏は飲尿療法で壊疽(えそ)、がん(乳がんが多い)、心臓病、マラリア、性病、白内障など、数々の病気を治癒させてきたといい、
「アームストロング氏にしたら、自分の方法で、がんは皆簡単に治ってしまっているのに、医師や大学ではがんの治療法の研究のために多額の予算を請求したりするのはなぜかと疑問を投げかけている」
と、上田氏はつづっている。ただ、重症化した糖尿病は治せなかったという。
上田氏も高橋氏同様、「尿は無菌」と述べる。さらに、尿には尿素や尿酸が含まれていて、尿素は細胞を活性化させたり傷を治したりする作用があり、尿酸には抗酸化作用があると、健康効果を語る。
また、尿に含まれる「ウロキナーゼ」という酵素は血栓を溶かす作用があり、ヒトの尿を高濃度に凝縮して医療用医薬品になっている。脳血栓症や静脈閉塞(へいそく)症の治療に使われる。ただ、医薬品化にあたっては「ヒト尿に存在するかもしれない病原体ウイルスを不活化/除去するため60度10時間の液状加熱処理及びウイルス除去膜処理を施してある」と添付文書に記載があり、十分な殺菌・殺ウイルス処理を行っている。
医療検査を受託する「シー・アール・シー」のウェブサイトによると、尿は成分上「細菌の発育にとって良好な培地」であり、排せつ後の尿は細菌が増殖しやすいという。また、排せつ前の尿は無菌とされていたが、米ロヨラ大学の研究者が2014年5月、最新のDNA検査技術を用いて検査したところ、それまでの方法では検出できない細菌が排せつ前の尿に存在していた、という研究成果を発表した。
医師で医療ジャーナリストの森田豊氏は「体が不要とするものを飲むのですから、健康にいいという体験談はあっても科学的・統計学的な有効性は立証されていない」と、13年7月29日のNEWSポストセブンの記事で飲尿療法に疑問を呈している。日本内科学会総合内科専門医の中野里美氏も、11年11月8日付の医療情報サイト「あなたの健康百科」の記事の中で、「民間療法の1つであり、さまざまな体験談はありますが、体に良いという医学的や科学的な根拠は判明していません」として
「個人的にはお勧めしない健康法です」
と否定的に紹介している。