いわゆる従軍慰安婦に関する記事を書いた元朝日新聞記者の植村隆氏(58)の長女(19)の個人情報をツイッターで拡散しながら「超反日サラブレッド」などと中傷を繰り返した男性に対して、原告の請求通りの賠償を命じる判決が2016年8月3日、東京地裁で出た。
中傷ツイートは匿名アカウントから書き込まれ、長女側はツイッター社やプロバイダー側に対して、ツイートを書き込んだ人物に関する情報の開示を求め続けた。その上で男性を提訴し、今回の判決につながった。匿名でも「逃げられない」ことが改めて示された形だが、中傷を受けた側の負担は大きい。
「ツイッター社→プロバイダー」の2段階で書き込んだ人物を特定
実は2014年頃から、海外に本拠地を置くSNSについても、書き込んだ人物の開示を命じるケースが相次いでいる。比較的大きく報じられているケースでは、静岡県の男性が11年頃から、ある匿名のツイッターアカウントから「この詐欺師!」などと繰り返し中傷されていたケースだ。
男性側は13年4月、ツイッターに対して書き込んだ人物の情報を開示するように求める仮処分を東京地裁に申し立て、同地裁は13年7月、ツイッター社に対してIPアドレスを開示するように命じた。男性側はこのIPアドレスをもとに、書き込みがどのプロバイダー経由で行われたかを突き止め、プロバイダーに対してツイートを書き込んだ人物の氏名や住所の開示を求める訴訟を起こし、14年1月に、開示を認める判決が出た。
プロバイダー側は控訴したが、14年5月の高裁判決でも原告側の訴えが認められた。中傷ツイートの主を突き止めるためには、ツイッター社とプロバイダーの2段階の手続きが必要になるわけだ。フェイスブックについても、東京地裁が14年8月にIPアドレスの開示を命じる決定をしている。
書き込んだ人物を特定するまでに1年以上かかった
今回の植村記者の長女のケースでは、長女が高校2年生だった14年9月、長女の顔写真、名前、学校名などとともに
「反日捏造工作員の父親に育てられた超反日サラブレッド。将来必ず日本に仇なす存在になるだろう」
などと書き込まれた。書き込んだ人物を特定するまでに1年以上かかり、提訴にこぎつけたのは16年2月のことだった。朝倉佳秀裁判長は、ツイートが原告のプライバシーや肖像権を侵害する違法なものであることは明らかで、原告の「恐怖と不安は耐えがたいものだった」と認定、男性側に170万円の支払いを命じた。中傷ツイートのスクリーンショットは拡散されたままで権利侵害の状態が続いているとして、賠償額は本来、原告の請求を上回る200万円が相当とだとした。
植村氏は、1991年に従軍慰安婦に関する記事を執筆。この記事について、北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」(救う会)会長の西岡力氏が複数の雑誌で「捏造」だと主張していた。植村氏は15年1月、西岡氏を相手取って損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしている。この余波で植村氏の長女にもネット上の批判が向かっていた。