子どもの予防接種「義務」ではないが... 感染すると治療法なく重症化の危険

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   小児科医を名乗るツイッターユーザーが、患者の子どもがまったく予防接種を受けていないのを知って「戦慄」を覚えたと呟き、話題となった。

   予防接種を受けないと、重い病気にかかるリスクはもちろんだが、実はこうした病気には治療法がない場合もある。周囲に感染が広がる懸念も高まる。

  • 結核を予防するBCGワクチンの接種跡
    結核を予防するBCGワクチンの接種跡
  • 結核を予防するBCGワクチンの接種跡

おたふく風邪から難聴、日本脳炎で重い障害

   ツイートがあったのは2016年7月26日。「発熱で具合の悪い小児の予防接種欄が真っ白だったとき小児科医が感じる戦慄」について、「商品発売後に致命的なバグに気付いたプログラマーとか、解答用紙提出後に選択肢が全部ズレていたことに気付いた受験生にも匹敵する」と表現した。相当ゾッとする状況なのは想像できる。ただ、この医師は具体的なリスクについては述べていない。

   また小児科医は、感染症に20年間かかっていないというユーザーに対して、「今後一切かからない保障は無い」と指摘。自身が軽症で済んだ場合でも、別の人に感染が拡大してその人が重症化することもあり得る、と警告した。

   日本小児科学会認定の小児科医・清益功浩(きよます・たかひろ)氏は、生活情報サイト「オールアバウト」に寄せた2011年3月9日付の記事で、子どもの予防接種について

「受けなかった場合のリスクの高さを冷静に考えなければなりません」

と、その必要性を述べている。

   清益氏によると、麻疹(はしか)や風疹、天然痘、おたふく風邪(流行性耳下腺炎)、日本脳炎といった予防接種対象の疾病の多くは、有効な治療法がない。16年7月末現在も同じで、これらに感染したら症状を軽減させる「対症療法」を施すぐらいしか対応方法がなく、あとは子ども自身の免疫力だけで抵抗しなくてはならない。しかし、子どもの免疫力は大人に比べて弱いため、一度かかってしまうと重症化しやすいのだという。

   合併症のリスクも増す。清益氏は、例えば麻疹の場合、間質性肺炎を引き起こして死亡するおそれもあると指摘。おたふく風邪は1000人に1人の割合で難聴になり、日本脳炎は、感染者の半数にてんかんや発達障害といった後遺症が残るという。

市町村が費用の多くを負担してくれる「定期接種」

   予防接種は、感染予防や重症化防止、他者への感染拡大防止のために投与するワクチンだ。予防接種法では、特に重要度が高い予防接種を「定期接種」として、市町村が主体となり、費用の大部分を市町村が負担して実施するよう定めている。定期接種の中でも、ジフテリア、百日せき、急性灰白髄炎(ポリオ)、麻疹、風疹、日本脳炎、破傷風、結核(BCG)、Hib(ヒブ)感染症、小児の肺炎球菌感染症、ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がん予防)、痘そう(天然痘)は、接種に努力義務がある。

   接種の推奨年齢や回数は市町村ごとに設定されている。日本小児科学会も、接種の推奨スケジュールをウェブサイト上で公表しており、定期接種の多くは満2歳までに1回目を受けるよう勧めている。

   なお、予防接種法が定めていないおたふく風邪、A型肝炎、B型肝炎、ロタウイルス、インフルエンザについては、市町村ではなく個別の病院が実施する「任意接種」とされており、費用も接種を受ける側の負担が大きくなっている。ただし水ぼうそう(水痘)は2014年10月1日、任意接種から定期接種となった。

1994年の改正で「努力義務」に変わった理由

   かつては、一部の予防接種は義務付けられており、受けなかった場合の罰則が設けられていた。しかし、1994年の改正で「努力義務」に変わり、必ずしも受ける必要はなくなった。法律改正の理由の一つは、乳幼児は免疫力が低く、ワクチンによって逆に感染症にかかってしまうケースが複数発生したことを受け、接種するか否かの選択の余地を与えたためだ。

   ワクチンは、毒性を弱めているとはいえ、病原体を投与して免疫力を高めようとするもの。発熱や注射部位の腫れ、関節痛といった副反応が出る場合もあり、受けることによるリスクもゼロではない。前出の、ツイッターに投稿した小児科医によれば、感染症にかかるこうしたリスクを懸念して忌避する親もいるという。

「予防接種をしないことのリスクを重症例の経験が無い人に伝えるのは難しい所ではあります」

と頭を悩ませてもいる。

   それでも、接種対象者の定期接種実施率はかなり高い。厚生労働省の発表によると、最新の2013年度は、四種混合(ジフテリア、百日せき、破傷風、ポリオ)の99.8%、麻疹の95.5%、風疹の95.5%をはじめ、A類疾病はほとんどが9割以上だ。

   また、同年度の副反応の報告件数は、四種混合は実施者数103万9952人に対して73件。他の定期接種も、実施者100万人前後に対し、副反応報告はおおむね50~200件となっている。

   不安な人には、リスクの程度をみるために予防接種前に記入する「予診票」をもとに、医師に相談できる。定期接種の場合、万が一重篤な副反応が出た場合には予防接種法にもとづく「予防接種健康被害救済制度」により、給付金が支給される。

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