2016年8月3日の内閣改造で防衛相に自民党の稲田朋美・前政調会長(57)が起用された。韓国メディアが「極右を抜擢」反発を強めている。これまでの稲田氏の従軍慰安婦や東京裁判見直しに関する発言、靖国神社の参拝などが理由だ。
この日も北朝鮮によるミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)に落下するなど、日韓が共同して対処すべき安全保障上の課題は多いが、稲田氏の就任で連携が容易でなくなるとの指摘も出ている。
7月末には慰安婦像の撤去を改めて要求
稲田氏が韓国に対して最も強い印象を与えたのが、11年8月の「事件」だ。稲田氏ら自民党国会議員3人が、竹島(韓国名・独島)に近い鬱陵(ウルルン)島を視察しようと韓国に渡ったが、混乱を懸念した韓国政府がソウル・金浦空港で入国を拒否し、3人はそのまま帰国した。当時、自民党は野党だったが、韓国のメディアが大反発した。
ここ数か月の稲田氏の行動や発言も韓国側は問題視している。
例えば16年2月のBS朝日の番組収録で、極東国際軍事裁判(東京裁判)について「判決の主文は受け入れている」としながらも、裁判が事後法で裁かれたとして「法律的に問題がある」と正当性を疑問視。16年4月28日には、サンフランシスコ講和条約が発効した「主権回復の日」に合わせて靖国神社を参拝した。内閣改造を直前に控えた7月31日朝にフジテレビで放送された番組では、15年8月の従軍慰安婦をめぐる日韓合意について
「(ソウルの日本大使館前の)慰安婦像の撤去というのは、その中のひとつの重要な要素。これについてしっかりと前に進めていくというところは示していただかないといけない」
などとして慰安婦像の撤去が合意の前提になっていると主張した。
通信社は「防衛協力関係が順調にいかなくなる可能性」指摘
韓国メディアは、日本で防衛相就任の可能性が報じられた2日ごろから、稲田氏のこうした言動を次々に取り上げている。朝鮮日報は稲田氏に「慰安婦暴言」という枕詞つきで紹介。聯合ニュースは「極右抜擢」の見出しで、安倍首相と稲田氏が「強硬右翼性向の歴史観と政治信念」で共通しているとした。公共放送のKBSも、稲田氏が「『歴史修正主義』傾向の強硬右翼」で、「南京大虐殺と従軍慰安婦問題と関連する日本の右翼の主張を先頭から代弁してきた」と指摘した。
韓国の通信社の「ニューシース」は、稲田氏を「女安倍」「与党・自民党の代表的な強硬右翼」と表現。「韓国と日本の防衛協力関係が順調にいかなくなる可能性が出てきそうだ」などと日韓関係に悪影響が出るとの見通しを示した。
15年5月30日には中谷元・防衛相と韓国の韓民求(ハン・ミング)国防相がシンガポールで会談。日韓の防衛相会談は4年ぶりで、停滞していた日韓の防衛協力も再開されることになった。16年6月4日に両者が行った会談では、北朝鮮がミサイルを発射するなどの安全保障上の緊急事態を念頭に、両大臣間に直通電話(ホットライン)を開設することで申し合わせていた。こういった一連の流れが、稲田氏の就任でどのように変化するのかが懸念されているわけだ。
稲田氏は、2014年には、英ガーディアン紙やロイター通信から、極右団体とのつながりを指摘されたこともある。防衛相就任を機に、こういった問題を欧米メディアが改めて「蒸し返す」可能性もありそうだ。