予備軍も含めると、現在65歳以上の日本人の5人に1人が認知症といわれる。周囲に深刻な影響を与える病気だが、患者本人は自分の将来について一般的に考えられているほどネガティブ(悲観的な気持ち)でいるわけではないようだ。
認知症専門誌「Alzheimer's Association International Conference」(電子版)の2016年7月25日号に発表された米ケンタッキー大学の研究によると、初期の認知症の人の半数はポジティブ(明るく前向きな気持ち)だという。
自分の気持ちや今後の生活の見通しを問うと...
研究チームは、初期の認知症または軽度認知障害と診断された男女48人を対象に、現在の自分の気持ちや今後の生活の見通しに関する詳しいアンケート調査を行なった。アンケートは「Silver Lining Questionnaire」(SLQ)と呼ばれるもので、「Silver Lining」とは「逆境にあっての希望」という意味だ。主にがん患者に対し、どんな心境で病気と向かい合っているかを調べ、治療方法の選択の参考にするために実施されることが多い。
「SLQ」では、次のような面に関して様々な問いかけを行ない、自分の病気がどれだけ「良い方向」(ポジティブ)、あるいは「悪い方向」(ネガティブ)に作用するかを尋ねて点数で評価する。
(1)家族や友人などの人間関係
(2)生きる意味や人生の価値
(3)ほかの人に及ぼす影響
(4)自分の心の強さ
(5)人生観の変化
新しい出会いが増え、他人に優しくなれた
その結果、半分近くの患者が総合点で「ポジティブ」であることがわかった。しかも、ポジティブの度合いは、軽度認知障害と診断された人より初期の認知症と診断された人の方が高かった。病気をより真正面から受け止めたからのようだ。特に次の面でポジティブだったという。
(1)自分の人生の価値を理解し、人生を受容する。
(2)失敗を以前より恐れない。
(3)以前より、物事を深く考えるようになり、他人に寛容になる。
(4)人生の諸問題から逃げずに、向き合えるようになる。
(5)人間関係が広がり、新しい出会いが増える。
研究チームのグレゴリー・ミーシャ教授は「認知症と診断されると、ショックを受けてマイナス効果を与えるとばかり思っていたので、ポジティブに受け止める人が半分もいることは意外な結果でした。ポジティブになれる人とネガティブになる人とどこが違うのか、それが分かれば認知症の治療に大いに役立つと思います」とコメントしている。