榊原定征会長が就任して3年目に入った経団連の「存在感」が注目されている。デフレ脱却に向け、安倍晋三政権と歩調を合わせてきたが、政府の賃上げ要請や消費税増税の再延期を粛々と受け入れる姿勢に対し、経済界の中からも「政権の言いなりだ」と冷ややかな見方が出始めている。
「首相の政治決断を尊重する」。2016年6月、安倍首相が消費税率10%への引き上げを19年10月に先送りしたことを受け、榊原会長はさっそく首相に同調してみせた。日本商工会議所の三村明夫会頭が「残念」、経済同友会の小林喜光代表幹事が「子や孫の世代への借金つけ回しではないか」などと苦言を呈したのとは対照的だった。
手にした「見返り」
経団連もこれまで、他の経済団体と同様に消費税増税の必要性を主張してきた。それにもかかわらず、安倍首相の増税再延期を容認するのは、米倉弘昌前会長時代に政権との関係が悪化したことへの反省があるためだ。
米倉前会長は、安倍首相が2012年末の就任前に掲げた大規模な金融緩和策を批判。安倍政権発足後、財界の代表であるにもかかわらず、経済政策の司令塔となる経済財政諮問会議(議長・安倍首相)のメンバーに選ばれず、政権との関係はぎくしゃくしたままだった。
2014年6月に後を継いだ榊原会長は、政権との関係修復に力を注いだ。早速、5年ぶりに会員企業への政治献金の呼びかけを復活。安倍首相と経済界が意見交換する官民対話では、首相からの要請を受け、賃上げや設備投資を積極的に行うよう会員企業へ提案することを表明した。
こうした関係強化の「見返り」として、経団連は法人税減税などの成果も手にした。しかし、安倍政権の経済政策は、大規模な金融緩和による円安誘導や低所得者への現金給付といったその場しのぎの対策が目立ち、将来の成長につながる規制緩和などの構造改革は、抵抗勢力への配慮もあって、あまり進んでいない。その結果、アベノミクスの効果はなかなか見えてこないのが現状だ。
「(また)賃上げと言われても...」
こうした中、安倍政権は経済界への要求を一段と強めている。石原伸晃・経済再生担当相は6月2日の経団連の総会で、「賃上げは4巡目、5巡目が重要だ」と来(17)年以降の春闘に向けて早くもプレッシャーをかけた。
これはさすがに経済界には面白くない。年明け以降、世界経済の先行き不透明感が強まり、為替相場は円高に傾いた。企業収益の減少が見込まれる中で「賃上げと言われても...」(大手メーカー幹部)と不満がくすぶる。
この不満は、安倍政権の方針に従順な榊原会長にもそのまま跳ね返り、日銀が導入したマイナス金利政策の影響で収益減少が確実な銀行業界からは「アベノミクスは修正が必要。榊原会長は安倍政権に対して、おかしい点はおかしいとはっきり言うべきだ」(銀行幹部)と批判が噴き出している。
かつては「財界総理」として政権にもの申し、存在感を発揮してきた経団連会長。物言わぬ現在の経団連の存在感の低下は否めず、7月に行われた恒例の夏季セミナーも、新聞記事などでの取り上げられ方は低調だった。政権との融和を最優先し、さらに存在意義が薄れていくのか。榊原会長の3年目のスタンスが注目される。