五輪のドーピング事件は世界を巻き込んだ異例の事態となっている。非難を浴びたIOCの判断は、スポーツを超越した「冷戦復活」を恐れたのではないか。
IOC(国際オリンピック委員会)の裁定は、バッハ会長から淡々と語られた。
こういうことである。
「ロシアを全面的に排除しない」
「バッハはプーチンのプードルだ」
国家ぐるみのドーピング疑惑による選手のリオ大会出場に道筋を残し、出場の判断は各競技団体にまかせるというものだった。丸投げだ、との非難が各国メディアから浴びせられた。
「バッハはプーチン(ロシア大統領)のプードルだ」
この過激な論評はその代表的なものだった。
「ファンに不満、混乱をもたらした」(カナダCBC)
「こんな臆病な決定は過去にない」(英国タイムズ)
ハシゴを外された形なのがWADA(世界反ドーピング機関)である。ロシアの疑惑を調査し、厳しい処分の材料を提供しただけに空しさが残った。
「将来の内部告発者にどう影響するか」
今回の騒動の発端は、ロシアの女子陸上選手の告発からだった。その選手が、IOCが今回示した出場条件に合致しないためにリオ大会の出場は不可能になった。このこともプーチンとバッハの関係が疑問視された理由の一つになっている。
当初はIOCに米国の圧力がかかったといわれた。対ロシアへの強烈な牽制球だった。要するに、かつて世界を、米国を軸とした西側、ソ連(現ロシア)を軸とした東側に二分した「冷戦時代」が、スポーツをきっかけに復活する危機をIOCは恐れたのではないか。