都知事選はいよいよ今度の日曜(2016年7月31日)が投開票となり、最終コーナーを回った状態だ。
これまで後出しじゃんけんばかりで、選挙期間が短く、まともな政策論争が行われていない。東京都は豊かな税収もあり、地方交付税交付金をもらっていない不交付団体のトップである。都の官僚機構もしっかりしており、誰が都知事になってもびくともしない。この意味で、近年は人気投票的な選挙になっている。
かつて野党の尻馬に乗っていたマスコミ
今回もその傾向であり、小池百合子、増田寛也、鳥越俊太郎3候補の争いに事実上なっている。小池氏と増田氏はともに閣僚を経験し、大組織運営や行政実務経験がある。ところが、鳥越氏はジャーナリストばかりでそうした経験がない。
鳥越氏は、ある意味で戦後のマスコミ貴族の典型例だ。戦後、長期自民党政権でありつつ、高度成長も達成した。この間、野党は何でも反対でよかった。政権交代もなく、実際に責任をもって現実問題に対処するわけではないので、いわゆる「安心して反対」の立場である。
マスコミもその野党の尻馬に乗り、楽な言論活動だったろう。ちょっと斜に構えて、ちょっと洒落た言葉で政府批判をしていればよかった。成長経済なので、新聞、雑誌は売れるので、交際費もたっぷり使えて、マスコミはさぞかし楽な商売だっただろう。
もっとも、そんな楽ちんな状況は長く続かない。野党でも、社会党のように間違って現実の政権運営をすると、自衛隊容認ととたんにボロが出て、あっさり消えてしまった(社会党は、社民党へ改称。社民党の現状はご存じの通りだ)。
記者はやがて役所の忠犬「ポチ」に
ただ、マスコミはそれでもまだパラダイスを長い間、謳歌できた方だろう。もちろん、最近のマスコミは右も左も大変である。ネット言論というライバルが出てきたので、既存のマスコミは長期停滞に見事にはまってきた。
鳥越氏は、戦後のマスコミ業界の中で、おいしい思いを満喫できて、逃げ切れた世代の代表だろう。
その世代のマスコミの特徴は、現場主義と言いながらの不勉強だ。これは筆者が役人時代に感じたことで、今週月曜日(25日)の現代ビジネスの筆者コラム「ジャーナリストをダマした経験のある筆者だからわかる、鳥越氏の『決定的な弱点』」に書いたところ、鳥越氏の次か、次の次の世代のジャーナリストから思わぬ反響があった。
元毎日新聞記者でもある佐々木俊尚氏は25日のツイッターで、「昭和の時代の昔気質の新聞記者って、本読まなかった。私は現役時代、記者クラブで本読んでると、よく『本なんか読む暇あったら夜回り行ってこい』と怒られました。昔の記者は『本なんか読まなくていい。取材相手から勉強すればいいんだ』という考えで、だから取材先になめられる」と書いていた。
筆者が役人時代に会った記者は、自分で調べもせずに、やたらと聞いてくる人が多かった。聞かれれば、根拠法規や公開資料などを示して説明するが、相手は答えだけがほしいので、根拠法規や公開資料は眼中にない。そして、別の問題になると同じ繰り返しだ。ただ、根拠法規や公開資料は同じなので、それらを理解していれば、筆者の所に聞きに来る必要もなかっただろう。そのうち、そうした記者はやがて役所の忠犬「ポチ」になって、役所の広報係として働いてくれた。鳥越氏をみると、かつてのマスコミ体質が透けてみえると思う。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)、「図解 図25枚で
世界基準の安保論がスッキリわかる本」(すばる舎)など。