ソフトバンクグループ(SBG)が、英国の大手半導体設計会社ARMホールディングスを約240億ポンド(約3.3兆円)で買収することが明らかになり、国内外に波紋を広げている。孫正義社長はロンドンで行った記者会見で「これからIoT(モノのインターネット)の時代がやってくる。その中心がARMだ。人類に最も重要となる産業で、世界一の企業を買収できた」と胸を張ったが、市場の評価は得られず、2016年7月18日の発表後、東京市場でソフトバンクの株価は下落した。
翌19日の東京株式市場でソフトバンクの株価は前週末終値より11%下がり、一時678円安の5329円まで急落。ソフトバンクは、これまでの大型の企業買収で年間の売上高を超える有利子負債を抱えており、投資家は「今回の買収で、財務がさらに悪化する」と判断したようだ。ソフトバンク株の19日の終値は前週末より620円(10.3%)安い5387円だった。
「中長期的には市場の理解は得られるとの見通し」示す
ロンドンから帰国した孫社長は19日、在京の新聞・テレビ各社を急きょ集め、インタビューに応じた。ソフトバンクの戦略とは裏腹に下落した株価について、孫社長は「毎回のことだ。大きな投資をすると、必ず一度は株価が下がる。その後、株価は徐々に回復する」などと持論を展開。「多くの人からみると、(ARMへの投資は)危なっかしい。価値がすぐには伝わらない」とも述べ、中長期的には市場の理解は得られるとの見通しを示した。
しかし、ソフトバンクの株価は、その後も低迷を続けており、買収表明から1週間余りが経過した26日の終値は5372円と、買収表明前の15日の終値6007円を大きく下回ったままだ。
ソフトバンクによるARMの買収は、日本企業の海外企業の買収としては過去最大規模となる。孫社長はIoTで自動車や家電などがネットにつながれば、あらゆる機器にARMが開発した半導体が搭載されるため、「世界の情報革命を牽引できる」と、記者会見で述べた。ARMはスマートフォンやタブレット端末の半導体では9割以上のシェアを占めるため、孫社長は「ARMは2020年には現在の4倍、5倍の規模になるだろう」とも予測した。
「雇用倍増」表明で歓迎ムードも
しかし、海外では米グーグルやアマゾンも半導体ビジネスへの参入を検討するなど、IoTをめぐる主導権争いは激しくなっている。市場では「今回の買収ではIoTという言葉だけが先走っている印象がある。半導体開発の経験のないソフトバンクがどこまで独自のカラーを出せるのか。技術革新の進歩は早く、いつまでもARMが安泰とは言えない」(アナリスト)との指摘もある。
英国ではフィナンシャルタイムズが日本のマスコミに先駆け、ソフトバンクによるARM買収を特ダネとして18日に報道。ソフトバンクがARMの雇用を倍増すると表明したことから歓迎ムードが広がった。しかし、英国市民の多くはハイテク企業としてARMを知っていても、「ソフトバンク」という日本企業の名前は知らないという。ソフトバンクが英国内では本格的な情報通信のサービスを行っていないためだ。これは日本人の大多数がARMを知らなかったのと同様だろう。日英間の報道ぶりにも温度差が見られ、「ARMのような英国にとってかけがえのない産業を外資へ売却するのはやめるべきだ」(高級紙ガーディアン)との論調もあった。