記憶力の低下を脳が補う「陽性効果」
この結果について、研究チームのジェシカ・ノーチェ博士はこう語っている。
「記憶力の成績が悪い人は、記憶力の低下を脳が補おうとして、物語のよかった部分だけを覚えるようになった可能性があります。脳には報酬系の神経組織があり、感動したり、快感を覚えたりすると、快楽ホルモンのドーパミンを出し気分を高揚させます。記憶障害が始まった兆候を脳が自覚し、この報酬系を活性化させ、記憶力を高めようとしているのかもしれません」
物語には、「正」の情報(明るい話)、「中立」の情報(あらすじ・細かいエピソード)、「負」の情報(暗い話)の3つがある。「正」「中立」「負」の全部を記憶するのは大変だ。そこで、記憶力の高い人は「正」の情報をあえて犠牲にして、「中立」と「負」の情報を記憶した。ところが、記憶力が落ちた人は3つのうちで1つしか記憶できないため、あえて明るく気持ちがよい「正」の情報を選んだというわけだ。これを脳の「陽性効果」と呼ぶそうだ。
ノーチェ博士は「高齢者が、よいことしか覚えていないようになったら、認知症のシグナルになる可能性があります。今後は脳画像技術を併用して研究を深めたい」と語っている。